研究実績の概要 |
本研究では、癌幹細胞化を促進・維持する微小環境(ニッチ)の制御機構を解析する。これまでに、癌幹細胞(Cancer stem cell, CSC)が通常の癌細胞からStat3, p53などのストレス応答シグナルを介してエピジェネティックに誘導されることを確認した。病理組織検体を用いた観察研究から、CSCは特に、in vivoにおいて腫瘍壊死部周辺など、特異的な微小環境に存在することが示唆され、実際にこうした環境下において上記シグナル関連分子の発現を確認している。本研究では、「化学療法や低酸素などのストレスによってCSCニッチが形成される」との仮説を検証する。 本年度は、初年度に引き続き、グリオブラストーマ(GBM)の幹細胞性獲得条件、メカニズムの解析を実施した。具体的には、ヒトグリオーマ・GBM系培養細胞であるU87MG, U373MG, T98Gを用いて、各種細胞ストレスを加えた際に幹細胞マーカー(OCT4, CD133, SSEA-1)の発現が増加するというシステムを構築した。GBM幹細胞にて重要な機能を有するStat3および、Stat3とEGFRと共同して機能すると報告されたStat5の機能を阻害するために、miRを用いた複数遺伝子同時ノックダウン系を構築した。また、単一遺伝子を完全にノックアウトするために、CRISPR/CAS9システムを用いたレンチウイルスによるノックアウトシステムも構築した。 これまでの検討で、細胞ストレスとしては低酸素、抗癌剤処理、酸性液処理などによって幹細胞マーカーの発現が誘導されることを確認した。また、上記ノックダウンシステムおよびノックアウトシステムを用いて、Stat3遺伝子の機能を抑制すると幹細胞マーカーの発現が抑制されること、Stat5遺伝子も同時にノックダウンするとさらに強く幹細胞マーカーの発現が抑制されることを確認した。 本年度は、さらにニッチを形成する単球・マクロファージ系の細胞および血管との共培養系によりさらに詳細に幹細胞ニッチの解析を実施する。
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