研究課題
本研究では、ヒト正常組織におけるADAM28の発現を調べるとともに細胞に対するADAM28の生物学的機能を解析した。剖検で得られたヒト正常組織におけるADAM28の発現を2種類の特異抗体を用いて免疫組織化学染色により検討した。その結果、ADAM28は精巣上体、気管支、胃などの各組織において上皮細胞で発現しており、脾臓やリンパ節においては一部の血管内皮細胞が陽性を示すもののリンパ球は陰性であった。これら組織におけるADAM28の発現レベルは肺癌組織より6倍以下の低レベルであることがELISA法で示された。ADAM28の細胞に対する機能を調べるために、酵母two-hybrid法によりヒト肺組織cDNAライブラリーをスクリーニングし、ADAM28結合候補分子としてC1qを同定した。ADAM28とC1qの各タンパク質を用いてbinding assayと免疫沈降を行い、両分子の特異的結合が示された。一方、C1qはADAM28では分解されなかった。次いで、正常気管支上皮細胞(BEAS-2BとNHBE)を用いてC1qの作用を検討したところ、BEAS-2B細胞ではp38とcaspase-3の活性化を通してアポトーシスが誘導され、NHBE細胞ではLC3-IIの蓄積とオートファゴソームの増加によりオートファジーを伴った細胞死が出現した。C1q誘導性細胞死やそれに関わる細胞内シグナル分子の活性化は、C1qレセプターに対する抗体の前処理で抑制され、C1qの細胞障害作用はC1qレセプターを介することが明らかとなった。また、細胞への添加前にC1qをADAM28と複合体にした場合にはC1q誘導性細胞死は阻害され、ADAM28をsiRNAでノックダウンするとC1q誘導性細胞死の亢進が認められた。以上の結果から、ADAM28は精巣上体や気管支などの正常組織において上皮細胞で発現されることが実証され、ADAM28はC1qとの結合で気管支上皮細胞におけるC1q誘導性細胞死の回避を介して、気管支上皮細胞の生存維持に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、正常組織におけるADMA28の組織発現と分子作用機構を解明することができた。これらのデータは、ADAM28を標的とした治療薬開発に基礎的データを供与し、将来的に完全ヒト型抗体を用いた臨床治験へ進めるために必須な情報を与えることが期待されることから、予定どおりに研究は進捗できている。
今後は、我々が開発したヒト型ADMA28抗体による副作用の検討と既存の分子標的薬との比較や併用投与などの検討を推進したいと考えている。
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