研究課題/領域番号 |
15K08412
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
尾崎 俊文 千葉県がんセンター(研究所), DNA 損傷シグナル研究室, 室長 (40260252)
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研究分担者 |
永瀬 浩喜 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 研究所長 (90322073)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 膵臓がん / RUNX2 / ゲムシタビン |
研究実績の概要 |
ヒト腫瘍の中でも最悪の予後をたどる膵臓がんに焦点を当てて研究を展開している。本年度においては、膵臓がん由来の培養細胞を用いて、RUNX2 のsiRNA によるノックダウンによるゲムシタビン(GEM)感受性の向上の有無を調べた。使用した細胞はそれぞれp53 の遺伝子型の異なる膵臓がん細胞である。AsPC-1 細胞および MiaPaCa-2 細胞はそれぞれp53 欠損およびp53 変異型であり、いずれも p53 野生型の SW1990 細胞に比べるとGEMに対する抵抗性を示した。これは野生型の p53 の発現の有無によるものであると考えられる。 興味深いことにはRUNX2 をノックダウンさせると、 AsPC-1 細胞および MiaPaCa-2 細胞いずれも GEM に対する感受性が著しく上昇した。そこで申請者は、腫瘍細胞において野生型として発現する p53 ファミリーである TAp73 および TAp63 に着目した。RUNX2 のノックダウンによって AsPC-1 細胞では GEM に応答した TAp63、そして MiaPaCa-2 細胞ではTAp73 のさらなる発現誘導が観察された。それぞれの細胞においてp63 あるいは p73 をノックダウンすると、GEM に対する感受性が明らかに低下した。したがって、RUNX2 が TAp63 あるいは TAp73 の発現あるいは機能そのものを負に制御しており、そして RUNX2 のノックダウンを介してこの負の制御が解除され、野生型 p53 の機能を TAp63 あるいは TAp73が代替することによって細胞死誘導システムが起動することが示唆された。 変異型 p53を発現する腫瘍細胞は抗がん剤に対する抵抗性を獲得している。実際に、75% を超える膵臓がんでは p53 の変異が認められている。したがって、膵臓がんの治療抵抗性を克服するためには変異型 p53 による負の効果を遮断することが求められる。本年度の研究成果から、RUNX2 のノックダウンが変異型 p53 の負の効果を克服する可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に報告している AsPC-1 細胞に加えて(Sugimoto et al., Cell Death Discovery, 2015)、変異型 p53 を発現する MiaPaCa-2 細胞および Panc-1 細胞がGEM に対する抵抗性を示すことを確認した(Nakamura et al., Oncogenesis, 2016; Ozaki et al., under revision)。さらに、両細胞ともに RUNX2 をノックダウンするとGEM 感受性が著しく向上することを明らかにした。GEM に暴露された MiaPaCa-2 細胞あるいは Panc-1 細胞では、それぞれTAp73 あるいは TAp63 の発現誘導が認められた。しかしながら、caspase-3 の基質の一つである PARP の切断の誘導はわずかなものであったことから、これらの細胞では変異型 p53 によってTAp73 あるいは TAp63 の細胞死誘導活性が阻害されていることが示唆された。 上記の細胞において、 RUNX2 のサイレンシングが GEM に対する感受性を顕著に改善させることを見出した。この実験結果は、p53 の遺伝子型に関わらず RUNX2 のノックダウンが膵臓がん細胞の GEM 感受性を向上させうることを示唆している。特に、 75%を超える膵臓がんでは p53 の変異が検出されており、しかもこの変異が治療抵抗性に強く関与していることから、上記の実験結果は興味深い。これらの成果の一部は、既に論文発表が決まっており当初の計画を上回るものである。 ところで、siRNA は物質的に不安定でありその標的遺伝子発現抑制効果は一過性である。したがって、この siRNA が抱える問題点を克服する目的で RUNX2 の転写を恒常的に抑制しえる PI-ポリアミドにアルキル化剤を付加した化合物の合成を試みているが、現在のところ完全合成には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
膵臓がん由来の培養細胞を用いた実験結果は、申請者の先行研究に基ずく作業仮説を支持するものとなっている。しかしながら、実際の腫瘍組織は三次元的な塊であり細胞間接触などが腫瘍の性状の決定に大きく預かっていることは明白である。したがって、通常の二次元的な平板培養系から得られた結果をさらに慎重に確認することが求められる。そこで、次年度においては三次元的な腫瘍塊を模倣したスフェアを培養細胞から誘導する実験系を用いることで、RUNX2 のノックダウンが GEM 感受性の向上に資するかどうかを調べる。さらに当センター病院消化器外科で採取された膵臓がんの臨床検体を用いて初代培養を試み、RUNX2 をノックダウンすることでGEM 感受性が向上するかどうかを検討する。 siRNA に代わり恒常的に RUNX2 の転写を抑制する PI-ポリアミドの合成を継続実施する。合成された化合物の膵臓がん抑制効果の有無を培養細胞系、およびヌードマウスのゼノグラフトモデルを用いて調べる。 RUNX2 は塩基配列特異的な転写制御因子であることから、そのノックダウンは様々な下流標的遺伝子群の発現レベルに影響を与える。そこで、マイクロアレイによる網羅的な解析手法を利用して、GEM 感受性の制御に深く関与する下流標的遺伝子を同定し、より安全性の高い分子標的の候補としてその機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては年度末を控えて消耗品の購入を控えたために小額の次年度繰越金が生じた。また、年度末になっても急いで消耗品を購入する必要がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
小額の次年度繰越金についてはその全額を消耗品の購入に充当する予定である。申請書記載の通り、次年度においても設備備品の購入予定はない。
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