研究課題
本研究はin vitro の二次元培養系において骨形成因子であるRUNX2をノックダウンすると、複数の膵臓がん細胞のゲムシタビン(GEM)に対する感受性が高まるという申請者の実験結果に基づいて実施されている。膵臓がんではがん抑制遺伝子p53の変異率が極めて高い(75%)ことから、抗がん剤耐性の仕組みに変異型p53が深く関与していることは間違いないと考えられる。そこで、この変異型p53の負の効果を回避する、あるいは乗り越えて膵臓がんの抗がん剤感受性を向上させる必要がある。申請者はp53の遺伝子型が異なる三種類の膵臓がん由来の細胞、AsPC-1(欠損)、MiaPaCa-2(変異)そしてPanc-1(変異)細胞に対してRUNX2をノックダウンすると、p53の遺伝子型に関わりなくGEMに対する感受性が向上することを見出した。p53ファミリーに属するTAp73/TAp63はp53と同様にDNA損傷に応答したがん細胞死を誘導する機能を持つが、p53とは異なり腫瘍組織での変異が認められない。すなわち、TAp73/TAp63は膵臓がんを含む様々な腫瘍組織において野生型として発現していることが既に示されている。RT-PCR法およびウエスタン法による発現解析の結果から、RUNX2のノックダウンによって変異型p53の発現量には大きな変化は認められなかったものの、TAp73/TAp63の発現量の増加が検出された。この実験結果はRUNX2のノックダウンによって膵臓がん細胞内における変異型p53とTAp73/TAp63の発現量との間のバランスが崩れ、その結果としてTAp73/TAp63依存性の細胞死誘導経路の活性化が起こり、GEM感受性が上昇した可能性を強く示唆している。したがって、将来的な臨床応用へとつなげるためには二次元培養系のみならず三次元培養系における本研究成果の検証が必要である。
2: おおむね順調に進展している
本年度においては、通常の二次元培養系で見出したRUNX2のノックダウンによる膵臓がん細胞のゲムシタビン(GEM)感受性の向上という現象が、実際の三次元的な腫瘍を模倣したスフェア培養系においても観察されるかどうかを検討した。p53変異を有する膵臓がん由来のMiaPaCa-2 細胞をスフェア培養液に移して培養したところ、培養後24時間で三次元的なスフェアの形成が認められた。一方で、野生型p53を有しGEM感受性の膵臓がん由来SW1990細胞では、スフェア培養液での培養後72時間においてもスフェア形成が観察されなかった。上記のMiaPaCa-2細胞スフェアに対してsiRNAを介したRUNX2のノックダウンを行ったところ、二次元培養系で検出されたGEM感受性の向上が再現性よく認められた。したがって、RUNX2は二次元培養系と同様に三次元スフェア培養系においても、膵臓がん細胞のGEM低感受性の制御に関わる主要な因子であることが強く示唆された。この実験系においてp53関連遺伝子群の発現レベルの変化をウエスタン法で解析したところ、RUNX2のノックダウンに応答したp53ファミリーTAp63の発現量の増加が検出された。この発現量の増加は転写レベルではなく蛋白質の安定性の向上によることが示唆された。これまでの実験結果から、RUNX2のノックダウンによる膵臓がん細胞のGEM感受性の向上が、in vitroのみならずin vivoにおいても実現しうる可能性が考えられた。
これまでの研究成果からRUNX2のノックダウンによる膵臓がん培養細胞のGEM感受性の向上が、二次元培養系においてもまた三次元のスフェア培養系においても認められている。今後の本研究の課題は、いかにこれまでの成果を実臨床に応用していくかにあると考えられる。樹立された培養細胞はプライマリー細胞の性質を残しているとはいえ、樹立の過程において様々な遺伝子変異を受けており、完全なin vivoの性質を反映しているとはいえない。そこで、当センター病院において採取されたバイオプシーあるいは手術検体に由来するプライマリーカルチャー系を導入し、培養細胞系で観察された実験結果すなわちRUNX2のノックダウンによる膵臓がん細胞のGEM感受性の上昇を検証する。さらに最近の報告によれば、複数のmicroRNAが膵臓がん細胞の悪性の性質を抑制することが実験的に示されている。興味深いことには、これらのmicroRNAのいくつかがRUNX2の発現を低下させることが認められている。したがって、RUNX2の発現抑制が膵臓がん細胞の抗がん剤耐性を含む悪性の性質を克服するストラテジーになる可能性は高い。そこで、これまでのsiRNAを介したノックダウンに加えて化学合成したmicroRNAによる膵臓がん細胞のGEM感受性向上の有無を検討したい。
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