研究課題
本研究の目的は、急速に進行する難治性膵管がんの進展とその発がんメカニズムを解明することであり、このためにこれまでに作成した「急速に進行する膵管がんを発症する遺伝子改変マウス」の解析を出発点に以下の2件の研究を行っている。1)上皮間葉系変換(EMT)の制御機構の解明と、2)急速に進行する難治性膵管がんがPancreatic intraepithelial neoplasia (PanIN)より直接発生するかの解明である。本年度1)では、これまでに作成しておいた膵管がん細胞株および比較対象となる不死化膵管上皮細胞を用いて、形態学的解析と分子生物学的解析を関連付けて、EMTとTube形成の分子制御機構の解析を進めた。2) では、Tet-Onシステムの導入で急速に進行する難治性膵管がんの発生時期を調節できるようにした遺伝子改変マウスについて、C57BL/6へバッククロスを完成させて、ゲノム置換率を100%とした。がん研究で使用するマウスの生産体制の確立と、KrasG12Dの単独発現でPanINを生じる時期の確定、そして膵管がんを生じるのに必要なDox投与量を最適化した。
2: おおむね順調に進展している
本課題では、1)上皮間葉系変換(EMT)の制御機構の解明と、2)急速に進行する難治性膵管がんがPancreatic intraepithelial neoplasia (PanIN)より直接発生するかについてその解明を進めている。1)に関しては、3Dタイムラプス顕微鏡によってEMTの誘導される経時的なプロセスを解明し、走査電顕と透過電顕によって同プロセスに出現する細胞を解析し、超微形態学的な細胞の特性を明らかにした。これらの形態学的評価解析法を確立できたことで、TGFβ処理によって生じるTube形成とEMTのプロセスを、シームレスに解析評価することが可能になった。次にDNAアレイ解析を行い、TGFβ 処理および未処理の対比を機軸として、TGFβ処理で誘導されるEMTの過程で発現の変化する遺伝子群(mRNA)を同定した。同定した遺伝子は、リアルタイムPCRシステムにより定量測定し、結果の検証作業を進めているところである。これまでのところ、TGFβ処理でTube形成が誘導され、逆にTGFβシグナルの阻害はTube形成を抑制してSphereを形成することが明らかとなっているが、これに連動して特徴のある遺伝子の発現変動を確認している。2)に関して申請者は、Cre/loxP依存的かつTet-On依存的にT抗原発現させることで「急速に進行する膵管がんを発症する新しい遺伝子改変マウス」の作成を進めてきた。これを出発点に、複数のマウスラインをC57BL/6へ7代以上のバッククロスを行い、B6ゲノム置換率を100%とした。発がん研究で使用するマウスの生産体制の確立を行うとともに、KrasG12Dの単独発現でPanINを生じる時期を確定するとともに、マウスへの飲水投与で膵管がんを生じるのに必要なDox投与量の最適化をおこなった。
平成28年度以降1)では、TGFβ処理で誘導されるEMTの過程で発現の変化する遺伝子群(miRNA)の同定を行う。27年度と同様にリアルタイムPCRシステムでの定量測定により結果の検証を行うほか、複数個の独立クローンについても同様の検討を行うことで、結果の一般化を実現する。さらに、EMT制御機能を解析するため、同定した遺伝子の過剰発現やノックダウン実験を行う。同定した遺伝子を安定に発現するベクターの他、同遺伝子に対するshRNA発現ベクターを構築して、膵管がんや不死化膵管上皮細胞株へ導入し、安定発現株を樹立する。樹立した細胞株は、3Dタイムラプス顕微鏡、コラゲナーゼ処理して取り出した3D組織再構築物の低真空走査型電子顕微鏡解析等ならびに、既存EMTマーカー分子(N-カドヘリンなど)の検索を共焦点レーザー顕微鏡にて解析する。以上に示す研究を実施することで、3D培養システムを利用した膵管がんのEMTメカニズムの解明を目指す。2)では、膵管がんがKrasG12Dの単独発現で生じたPanINより、直接発生するかどうか実験病理学的解析を進める。Tet-On依存的なT抗原発現は、Dox投与開始後3日以降であることから、投与開始後3日目以降に、1日経過ごとに膵臓を複数の個体から回収し、連続切片を作製して病理組織学的解析を行う。同解析では、PanIN病変の中に膵臓がんの初期病変が認められるかどうかを重点的に解析する。
作成している遺伝子改変マウスについてC57BL/6へバッククロスをすすめていたところ、マウスが出産しなくなり半年ほど繁殖が困難になり、保管しておいた受精卵からバッククロスを再開する必要が生じた。このため、発がん実験に使用するためにマウスを増産するプロセスへと至ることが遅れ、予定していた繁殖や、同マウスを使用した詳細な遺伝子、病理、超微形態解析を実施することが実施できなかった。これらの事を理由に、次年度に使用額が生じた次第である。
発がん実験で必要となるマウスの匹数を確保するには、マウスコロニーの増加が必要である。また、時間を節約する必要が生じていることから、人工授精を取り入れた効率的な繁殖を実施する。また、マウスの匹数を確保して行うがん部の解析、マウスに生じたがん組織をマイクロダイセクトして調整した遺伝子サンプルの発現解析の実施を予定していることから、翌年度分として請求した分と合わせて、繰り越した予算を使用する計画を準備している。
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