本研究の目的は、急速に進行する難治性膵管がんの発症と進展のメカニズムを解明することである。このため、1)上皮間葉系変換(EMT)の制御機構を解析するとともに、遺伝子改変マウスの作成と解析によって、2)急速に進行する難治性膵管がんは、Pancreatic intraepithelial neoplasia (PanIN)から、発生してくることを明らかにした。 1)では、これまでに作成した膵管がん細胞株および比較対象となる不死化膵管上皮細胞による管状構造形成とEMTの関連性、メカニズムをインプットするシグナル分子としてTGFβを同定した。事実、三次元培養下において再現される管状構造形成は、TGFβシグナルの活性化に依存しており、TGFβシグナル阻害剤による処理は管状構造形成を抑制したのに対し、TGFβ刺激は阻害剤によって抑制された管状構造形成を回復した。なお、TGFβシグナル経路の活性化と三次元培養下において再現される管状構造形成の関連は、TGFβシグナル標的遺伝子の発現ならびに超微形態学的に観察される上皮性構造の出現・消失としても確認することができる。 2) では、温度感受性SV40ウイルスに由来するtsTAgをDox投与依存性に発現するようにした遺伝子改変マウスを用いた研究によって、PanINが直接的に癌化する直接的な所見を明らかにした。KrasG12Dを発現するマウスにおいて、Doxを飲水投与することでtsTAg発現を誘導した場合、KrasG12D発現により生じていたPanINは直ちにPDACへと進展し、これによってマウスは、2週間以内に死亡するのである。 以上より、急速に進行する難治性膵管がんは、上記1と2)で明らかにしたメカニズムを背景に発症し、進展するのであろうと考察する。
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