研究課題
ウイルス感染症、感染がんや難治性炎症性疾患の発症メカニズム解明と免疫担当細胞の機能制御による、これらの疾患治療法開発への応用は重要である。本研究では、新たな免疫機能の制御法を確立するために、まずはじめに健常人よりヒト末梢血を採取し、in vitro培養系にて樹状細胞、抗原特異的T細胞を誘導して神経ペプチドシグナルによる機能制御について解析を行なった。その結果、樹状細胞のウイルス感染をミミックするpoly I:Cの刺激によるIFN-α/βやIL-12サイトカイン産生誘導能、成熟化、および抗原特異的T細胞の分化・誘導能、抗原ペプチド反応するT細胞からのIFN-γやIL-4などの各種サイトカイン産生が、神経ペプチド受容体NK1RあるいはNK2Rの阻害剤の添加または樹状細胞へのsiRNAの導入によって有意に抑制されることを確認した。また、DNAマイクロアレイで探索したNK2Rを介した神経ペプチドシグナルの下流標的分子群について、候補分子のsiRNAを用いて検証した結果、幾つかの候補因子の遺伝子ノックダウンによりpoly I:C刺激によるサイトカイン産生を抑制することを見いだした。さらに、がん患者や難治性の炎症性腸疾患患者検体を使用し、NK1RおよびNK2Rについて炎症組織、腫瘍組織あるいは浸潤している免疫細胞における発現を免疫組織化学染色法により確認した。以上の結果から、神経ペプチドシグナル伝達経路とその下流分子による炎症・免疫機能の制御が、実際にヒト樹状細胞についても認められたことから、今後、その詳細な作用メカニズムの解明を行なうとともに、感染症、感染がんや難治性炎症性疾患患者との関連について検証を行なうことで、神経ペプチドシグナルの制御あるいはその阻害による、新しい難治性炎症性疾患やがん治療法の開発に繋がる科学的エビデンスが得られるものと考えている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、当初の予定通り、in vitro培養実験による評価系を用いて、ヒト樹状細胞のサイトカイン産生誘導と抗原特異的T細胞の分化・誘導能、さらに抗原特異的な免疫応答における、神経ペプチドシグナルの作用効果を解析評価した。その結果、ヒト樹状細胞における神経ペプチド受容体NK1RおよびNK2Rの阻害あるいはノックダウンにより、サイトカイン産生能や抗原提示能が抑制されることを確認し、神経ペプチドシグナルを介した樹状細胞の新規機能制御メカニズムの存在と炎症応答や抗原特異的T細胞免疫の賦活に重要であることを見いだした。また、DNAマイクロアレイで探索したヒト樹状細胞におけるNK2Rを介した神経ペプチドシグナルの下流標的分子群について、候補分子のsiRNAを用いたノックダウン法により検証した結果、幾つかの候補因子の遺伝子がpoly I:C刺激によるサイトカイン産生を抑制することを見いだした。これらの候補遺伝子については、少なくともこれまでにヒト樹状細胞の機能制御に関する報告はないことから、新しい炎症応答、免疫制御の有力な標的分子となり得る可能性を示している。さらに本年度において、予定された研究を前倒し、ヒト臨床検体を用いた検討も行った。その結果、肝がんや子宮頸がんの患者の病変組織における神経ペプチド受容体の発現について、免疫組織化学染色により解析したところ、NK1RおよびNK2Rが、炎症組織、腫瘍組織あるいは浸潤している免疫細胞に発現していることが判明した。従って神経ペプチドシグナルカスケードの標的分子薬剤などを用い、今後、感染症、感染がん、炎症性疾患において、樹状細胞の機能制御を介した新しい治療法の開発が期待される。以上の結果から、本研究は当初の予定よりも加速して進めることができ、実際にヒト臨床応用が見込まれる、非常に有望な成果・エビデンスが得られているものと考えている。
これまで得られた研究成果を基軸に、今後、神経ペプチドシグナルカスケードを標的とした、感染症、がん、難治性炎症性疾患治療の有効性を証明する実験を行なう。具体的には、マウス炎症性腸疾患モデル、重篤化喘息モデル、担がん治療モデル、ヒトがん細胞および免疫細胞を使用したヒト化がん治療モデルマウスを作出し、今年度の研究で得られた神経ペプチド受容体の阻害剤、および各種ノックアウトマウスを使用して、神経ペプチドシグナルの炎症、免疫応答に対する作用効果を検証するとともに、各疾患マウスモデルの治療効果を確認する。特に担がん治療モデルマウスを使用し、一般的に標準治療として使用されている制がん剤、抗炎症薬、免疫制御剤の投与を行い、この過程で神経ペプチドシグナルによる樹状細胞の機能制御を介した炎症応答、免疫応答の詳細なメカニズムの解明を行うとともに、前述の神経ペプチドシグナル伝達経路を標的とする薬剤との併用治療を行なう。これらの研究成果をもとに、実際のがん患者および難治性炎症性疾患に対する治療において、有効な条件・方策を見い出す。また、今年度に引き続き、ヒト臨床検体をさらに蓄積し、神経ペプチドシグナル関連分子とがんや炎症性疾患の病態との相関関係を検証する。その結果をもとに、神経ペプチドシグナルを標的とした治療の有効性を検討することで、最終的に、より効果の高い新規治療の開発に繋ぐ、架け橋研究を展開する。
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