研究課題
細胞内の不要なタンパク質やオルガネラを分解する機構として、オートファジーは酵母から哺乳動物まで保存されている。近年、酵母の遺伝学を用いてオートファジーの分子機構の解析がすすみ、哺乳動物細胞のオートファジー分子が同定され、これらの欠損マウスの解析によりその生理機能が明らかにされつつある。一方で、我々はオートファジー必須の遺伝子であるAtg5やAtg7に依存せずLC3の局在化を伴わない新規のオートファジーを哺乳動物において発見した(Nature 2009)。このオートファジーと従来型とは生体内で使い分けられ、例えば赤血球におけるミトコンドリアの除去には新規オートファジーが関与していた(NatureCommun 2014)。本研究ではこれらの知見を元にケミカルバイオロジーを応用しポリグルタミン蛋白質の発現制御機構の解明や薬剤開発を目指し、以下の結果を得た。①GFP融合ポリグルタミン(GFP-polyQ)を発現したPC12細胞に約5万種類の低分子化合物を投与し、ハイスループットアッセイによりGFP-polyQの発現を抑制できる24種の化合物を選定した。②さらにこれらの化合物をPolyQ病モデルショウジョウバエ(polyQを複眼に発現させ複眼変性を誘導)に摂食し、変性を改善できる化合物2種 (PQ1とPQ2)を選定した。これらではポリグルタミンmRNA量は変わらず、作用点はタンパク質分解や安定性にあると考えられた。③化合物PQ2を脊髄小脳変性症(PolyQ病)モデルマウスに投与したところ、オートファジーが活性化され脳内の変性タンパク質の蓄積が抑制された。また神経細胞の脱落も抑制され顕著な病態改善を認めた。④PQ2の標的分子の同定に成功した。⑤これらの知見に加え、ゴルジ体を介した新しい蛋白質分解機構の同定に成功し、この機構を破綻させると神経変性疾患に罹患することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
ゴルジ体を介した新しいタンパク質分解機構を同定し、これをGOMEDと命名しEMBO J, 2016に発表した。この機構はタンパク質の細胞外への分泌が阻害されることで引き起こされることがわかった。
今後は化合物PQ2の標的分子の同定およびそのシグナル機構の解析をすすめ、ポリグルタミン病の病態制御機構の一端を見出す。また、新たに見出したゴルジ体を介するタンパク質分解機構の破綻により、マウスでは神経変性疾患に罹患することが分かった。そこで、今後はこのマウスを用いたポリグルタミン病との関連を調べていく。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
EMBO J.
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