研究課題/領域番号 |
15K08421
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
千葉 朋希 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (00645830)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非コードRNA / 炎症 / ゲノム編集 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
ロングノンコーディングRNA(lncRNA)による制御が炎症性サイトカインの発現制御における新たな階層として注目されているが、その生理的意義が明らかにされたlncRNAは非常に限られている。これまでに申請者は炎症性サイトカインの発現を転写レベルで制御すす新規のlncRNAを同定し、TALENやCRISPR/Cas9に代表されるゲノム編集技術を応用して遺伝子改変マウスを作製し、lncRNAの生体内における役割を明らかにすることを目的とした。平成28年度はゲノム編集を用いてlncRNAのノックアウトマウスの作製を行なった。lncRNAは3つのエクソンから成り、lncRNAの欠損変異体のレスキュー実験により第3エクソンが炎症性サイトカインの発現亢進において重要な作動エレメントであることが明らかになった。そこで第2エクソンにポリA鎖付加配列をノックインしたマウスを作製した。SV40 late poly A signal sequenceを相同配列で挟んだドナーDNAを調整し、Cas9をコードするmRNAと第2エクソンを標的としたgRNAをマウス受精卵へマイクロインジェクションし、ノックインマウスを得た。ポリA付加配列ノックインマウスは第3エクソン以下の発現が消失していた。さらに、LPSの腹腔内投与によるendotoxin shockに対して抵抗性を示した。また、コドン置換TALEライブラリーはレトロウィルスやレンチウィルスを用いた遺伝子導入に際して組換えを抑制し、極めて有用であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
lncRNAの欠損変異体のレスキュー実験により第3エクソンが炎症性サイトカインの発現亢進において重要な作動エレメントであることが明らかになった。そこで第2エクソンにポリA鎖付加配列をノックインしたマウスを作製した。SV40 late poly A signal sequenceを相同配列で挟んだドナーDNAを調整し、Cas9をコードするmRNAと第2エクソンを標的としたgRNAをマウス受精卵へマイクロインジェクションし、ノックインマウスを得た。ポリA付加配列ノックインマウスより調製したマクロファージにおいてLPS刺激によるlncRNAの発現は期待通りに第2エクソンで停止し、第3エクソン以下の発現が消失していた。このマウスにLPSの腹腔内投与によるendotoxin shockモデルを用いてin vivoの炎症応答を検討したところ抵抗性を示したことから新規に同定したlncRNAが生体内において炎症応答の惹起に重要であることが示唆された。興味深いことにデキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎モデルにおいては逆にポリAノックインマウスは早期に死亡するデータを得た。以上のことから、このlncRNAが炎症応答の抑制因子として働く可能性が示唆された。一方でコドン置換TALEライブラリーはレトロウィルスやレンチウィルスを用いた遺伝子導入に際して組換えを抑制し、極めて有用であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
lncRNAの炎症およびそれにより引き起こされる自己免疫疾患への関与をより詳細に検証するために、多発性硬化症モデルであるExperimental Autoimmune encephalomyelitis(EAE)を用いてさらなる検証を進める。これまでの細胞株を用いた研究によりこのlncRNAはIL-6やGM-CSF、IL-23p19の発現をポジティブに制御することを明らかにしている。EAEはTh17型の自己免疫疾患であることが広く認知されており、Th17の分化誘導においてIL-6やGM-CSF、IL-23p19が重要であることからlncRNAのEAEの病態形成への関与が示唆される。また、デキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎においてもIL-23は病態形成に重要な役割を果たすためIL6-Th17-IL23のaxisの制御を介した病態形成に注目して検証していく。また、コドン置換TALEライブラリーを用いることでレトロウィルスやレンチウィルスによるTALE遺伝子の導入が安定的に行えることが明らかになったため、マクロファージやTh17細胞などの遺伝子導入が困難な細胞に対してコドン置換TALEを用いた人工転写因子を導入し、lncRNAの発現を制御することでin vivoにおけるlncRNAの役割を明確にしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた多発性硬化症モデル(Experimental Autoimmune Encephalomyelitis)の実施がLPSショックモデルおよび大腸炎モデルを優先して行なったことにより次年度に繰り越しになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に多発性硬化症モデルの実施し必要なペプチド、アジュバントの購入および実験に必要なマウスの飼育・維持費用として適切に執行する。
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