研究課題/領域番号 |
15K08422
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
西宗 敦史 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (40311310)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん / 疾患モデル動物 |
研究実績の概要 |
上顎癌は耳鼻科領域の悪性腫瘍で副鼻腔に発生する癌としてはもっとも高頻度となっていますが、症例が比較的少ないこと、適切な動物モデルの存在しないことなどから、他の悪性腫瘍に比べてその研究が遅れています。本研究課題では、上顎癌との関連が先行研究によっては疑われていなかったCRELD1という遺伝子の異常で、マウスにおいて本疾患に類似した病態を引き起こすという観察から、本疾患のモデル動物の開発を試みています。 CRELD1遺伝子を染色体上で完全に欠失させたノックアウト動物を作成し、自然突然変異によって誘発される症例の観察を昨年度に引き続き行いました。本年度は、ヘテロ接合体に限って発症する他の悪性腫瘍に関して病理学的な解析を進め、遺伝子操作を行った染色体領域でCRELD1以外の遺伝子について、実験的に意図しなかった異常が起きていないことをgenomic PCR法によって解析しました。CRELD1領域の近傍にあるいくつかの遺伝子について、異常がないことを確認できたので、腫瘍組織より抽出したRNAを鋳型として、RT-PCR法によってCRELD1転写産物の発現量を解析しました。腫瘍組織では対照正常組織と比較し、CRELD1転写産物の著明な減少を認めました。このことから現在引き続き腫瘍組織における転写産物の構造を解析しながら、腫瘍組織における転写量の現象を起こすゲノムDNA上の変異部位の同定を行なっています。 一方上顎癌の発生については、飼育環境を従前よりさらに改善したためか、自然発症を認めておらず、上顎癌以外の悪性腫瘍の解析を行いながら、頭部へのエックス線部分照射を行い、効率の良い発症条件の確立を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CRELD1欠失アレルをヘテロ接合に持つノックアウトマウスを飼育し、腫瘍を発生した個体を解析に用いている。飼育ケージ数を有効に活用するため、小ケージに最大の5匹までの飼育数で実験を行うため、ケージ交換の頻度を高め週2回とすることで動物福祉に配慮した良好な飼育環境を実現している。ところが、今年度はヘテロ接合個体群に上顎癌以外の悪性腫瘍の発生はみられたが、上顎癌様の症例は得られなかった。このため、上顎癌以外の腫瘍組織の病理解析をCRELD1座位及び、CRELD1転写産物に注目して進めるとともに、上顎癌の発生頻度上昇を期して頭部への部分エックス線照射を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
現在継続飼育しているヘテロ接合個体に関しては、CRELD1変異によってこれまで想定されていなかった悪性腫瘍発生に対する効果を観察しており、腫瘍組織での著名な転写量の減少を認めたことから、野生型CRELD1タンパク質の腫瘍抑制作用が検証されつつある。したがって、CRELD1のヘテロ接合個体に自然発症する悪性腫瘍については、引き続きCRELD1の生体内作用を解明するためのモデル実験系として活用しながら、これまでの解析を展開してゆく。 一方、上顎癌のモデル動物開発という当初の目的を達成するために、頭部への部分エックス線照射による染色体二重鎖切断刺激を与え、自然に起こっていたと考えられる頻度の低い野生型荒れるの突然変異誘発を行ってゆく。効率よく上顎癌を発生させる条件を見いだすことで当初の目的を達成したいと考えている。 エックス線による腫瘍発生加速実験に用いる個体群はゲノタイピングの後に雌雄別飼育し、野生型ホモ接合個体を陰性対照として若干数含める。個体群維持に用いるグループはヘテロ接合個体同士の交配により繁殖させる。これまでの飼育結果から、ヘテロ接合体について生育状態に野生型ホモ接合個体との明らかな差は認められていない。腫瘍発生加速実験に用いるグループは頭部へのX線照射(1.5-2.0Gy/週を4回程度を開始点とする)を行う群を含める。
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