研究課題/領域番号 |
15K08424
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
池田 栄二 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30232177)
|
研究分担者 |
崔 丹 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40346549)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 血液脳関門 / メタロプロテアーゼ / 低酸素 / 炎症 / 糖尿病網膜症 |
研究実績の概要 |
本研究計画は、多くの難治性神経系疾患の病態の中枢を担う血管バリアー(血液脳関門、他)破綻の責任因子を特定し、その因子を標的とした新規治療法の確立を目的とし立案された。 我々は、病的血管バリアー破綻の誘因の1つである低酸素刺激に焦点をあて、低酸素誘発性血管バリアー破綻の責任因子としてADAM12とADAM17を特定した。平成27年度には、ADAM12とADAM17が血管バリアーを破綻させる際に標的とする分子の特定を試みた。血管バリアーの本体である内皮細胞間タイト結合の構成分子・裏打ち分子を候補分子とし解析したが、それらはADAM12とADAM17の標的として否定的であるデータが得られた。また、低酸素刺激のみならず炎症刺激など複数の誘因による血管バリアー破綻に共通して関与する候補因子A(特許出願済みだが未公開のため因子Aとする)についても解析を進めた。平成27年度には、炎症刺激を含む複数の誘因による血管バリアー破綻に、因子Aが共通責任因子として関与することを立証する興味深いデータが得られた。ヒト疾患では複数の誘因が混在し働くことから、因子Aの治療標的としての有用性・汎用性が期待された。そこで、糖尿病網膜症に対する新規治療標的としての因子Aの有用性を、streptozotocin(STZ)誘発糖尿病マウスを用い評価したところ、特異的siRNAの硝子体内投与による因子A発現抑制が、STZ誘発糖尿病マウスにみられる網膜血管バリアー破綻を修復治癒させることが示された。一方、ADAM12あるいはADAM17特異的siRNAの硝子体内投与では、糖尿病網膜症に対する有意な治療効果は得られなかった。現時点では、因子Aを標的とした治療戦略の糖尿病網膜症への臨床応用が期待されるデータが得られているが、今後は、様々な難治性神経系疾患に対し広く適応可能な新規治療標的となるかについても解析を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的は、神経系血管バリアー破綻の予防・修復に基づく新規治療法を開発し、種々の難治性神経系疾患の根治を実現することである。現時点で、ADAM12、ADAM17、因子Aが新規治療戦略の標的候補として特定され解析を進めている。低酸素刺激を誘因とした血管バリアー破綻過程において、ADAM12とADAM17が標的とする分子の特定(当初は平成27年度に特定予定)には至っていない。しかし一方、因子Aについては、様々な誘因による血管バリアー破綻過程に共通して関与することが確認されるとともに、モデルマウスを用いた解析により糖尿病網膜症の新規治療標的としての有用性が期待される成果が得られている。したがって、難治性神経系疾患の根治を目指す本研究計画全体としては、「おおむね順調に進展している」と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果をふまえ、下記の解析を計画している。 1)ADAM12とADAM17についての研究計画: 内皮細胞間タイト結合の構成分子(claudin-5、JAM、occludin)およびタイト結合裏打ち分子(ZO-1)の低酸素刺激による動態を網羅的に解析した段階では、低酸素刺激下では、claudin-5のみならずZO-1も、ADAM12とADAM17による発現調節を受けることを示すデータが得られている。それらのデータからは、タイト結合構築過程においてタイト結合構成分子・裏打ち分子のより上流に位置する制御分子が、ADAM12とADAM17の標的分子であることが示唆されるため、その視点から解析を進める。 2)因子Aについての研究計画: 複数の誘因による血管バリアー破綻に共通に関与する因子Aの作用機構について解析を行う。また、現段階では、糖尿病網膜症に対する新規治療標的として臨床応用が期待されるデータが得られているが、さらに因子Aが、種々の難治性神経系疾患に対し広く適応可能な新規治療標的となるかについても解析を進める。 3)神経系血管バリアー破綻の抑制が神経細胞機能に及ぼす効果について: 脳梗塞、糖尿病網膜症などにおいて、ADAM12、ADAM17、因子Aを標的とした血管バリアー破綻の予防・修復が、神経組織の機能予後に及ぼす影響について評価する系を確立し、血管バリアー機能を正常化するタイミングの最適化などを含めた治療戦略を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究計画は、おおむね順調に進展したが、血管バリアー破綻過程におけるADAM12とADAM17の標的分子特定は、平成28年度に持ち越されたため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
(今後の推進方策)に記載の通り、平成28年度には多くの細胞生物学的実験、動物実験が必要となる。平成27年度分として請求した助成金の次年度使用額分は、平成28年度分として請求した助成金と合わせ、培養器具・試薬購入、実験動物購入、抗体購入などの消耗品費として使用する計画である。
|