我々は、神経系血管バリアー機能を制御する因子として、血管内皮細胞に発現し細胞膜に局在するADMA12、ADAM17、basiginを特定し、それらの治療標的としての有用性を中心に解析を進めてきた。ADAM12、ADAM17については、低酸素刺激によって起こる血管バリアー破綻に比較的特異的に関与すること、従って、ヒト神経疾患に対しては、治療標的としての適応範囲が限られる可能性を示唆する知見が得られている。平成29年度は、低酸素刺激による血管バリアー破綻の機構をさらに詳細に解析するなか、低酸素刺激が、活性酸素種産生亢進を介して血管内皮細胞の細胞質内における鉄(II)イオンレベルの上昇をきたし、Fenton反応を亢進させ、さらに活性酸素種産生を惹起する結果、細胞膜からclaudin-5が消失し血管バリアーが破綻するというカスケードが示された。また、低酸素刺激による血管内皮細胞の細胞膜からのclaudin-5消失現象に必須な責任配列として、我々がclaudin-5 分子のC末近傍に特定した領域を8アミノ酸まで絞り込み、現在、アミノ酸変異claudin-5分子を作製し責任アミノ酸を特定中である。神経系血管バリアー破綻へのADAM12、ADAM17の関与機構については、いまだ解明に至っておらず解析中である。一方、低酸素刺激、炎症刺激など、様々な病的刺激による神経系血管バリアー破綻に共通した責任因子であることが示されたbasiginについては、破綻した(開いた)血管バリアーを修復(閉じる)ための標的としてだけではなく、閉じた血管バリアーを開くための標的ともなる可能性がin vitro系にて示唆された。人為的かつ可逆的に神経系血管バリアーを開く手法の確立が期待される結果と考え、解析を進めている。
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