培養血管平滑筋細胞に高濃度のリンを暴露させた際に細胞内で起こる種々の遺伝子発現の変化について研究を行っている。特に今回は高リンにより誘導される細胞内石灰化と酸化ストレスとの関連に着目して研究を行った。酸化ストレスに反応する系としてはKeap1/Nrf2系に注目して、その発現をウエスタンブロットおよび免疫組織化学により観察し、石灰化病変との関連性を検討した。まず培養平滑筋細胞に高リン2.5 mMを暴露後3日、7日でKeap1とNrf2の発現を蛍光免疫組織化学、ウエスタンブロットおよび定量PCRで検索した。Keap1の発現はウエスタンブロットおよび定量PCRでは変化がみられなかったが、免疫組織化学では培養平滑筋細胞細胞質内で陽性像は減弱した。一方Nrf2は免疫組織化学でその反応性は増加し、陽性像が細胞質から核に移行した。定量PCRでもやや増加する傾向がみられたが、細胞質と核からそれぞれ蛋白を抽出して行ったウエスタンブロットでは明らかに核でNrf2蛋白の増加が認められた。またKeap1/Nrf2系シグナルの増加に伴ってHO1等の下流遺伝子発現の増加を定量PCRによって確認できた。この高リン暴露による酸化ストレス反応の亢進と血管平滑筋細胞石灰化との関係を検索するため、Nrf2の阻害または亢進させた時、石灰化の程度がどう変化するかを検索した。その結果、siRNAによりNrf2阻害を行った時、石灰化の程度が増加したのに対し、Nrf2活性を亢進させると石灰化の程度が低下した。このことより、高リン刺激により起こる酸化ストレス反応の亢進は血管平滑筋細胞の石灰化を抑制する方向に働くことが考えられた。
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