本研究課題では、我々が近年新たに確立した耐糖能異常易発性および抵抗性(Prone系およびResistant系)の両系統のマウスを用い、高脂肪食の過食によってメタボリックシンドロームの諸症状を発症するProne系マウスとそれらに抵抗性を示すResistant系マウスとの表現型の差異の成因について、摂食行動を中心に解析を行った。Prone/Resistant両系統間で体重に差を認めない若齢期(5週齢)においてProne系マウスは既に高脂肪食を過食する傾向を示した一方で、自発行動量に両系統間で顕著な差は認めなかったことから、Prone系マウスにおける体重増加の要因は、主に若齢期からの自発的な高脂肪食の過食にあるものと考えられた。そこで、Prone系マウスの摂餌量をResistant系マウスの摂餌量に合わせたpair-feeding試験を行った結果、Prone系マウスにおける体重増加や、それに伴うメタボリックシンドローム様の諸症状の増悪は、若齢期からのpair-feedingによって、ほぼ完全に抑制されることが確認された。この若齢期におけるProne/Resistant両系統間での摂食行動の差異を規定しうる因子を検討した結果、5週齢においては体重や内臓脂肪組織重量に両系統間で差を認めない一方で、血中レプチン濃度や内臓脂肪組織におけるレプチン遺伝子の発現量に明らかな差異があることを見出した。さらに、この若齢におけるレプチン動態の差異が、両系統間における摂餌量の差異の出現に寄与していることを確認するため、脳視床下部弓状核におけるレプチンシグナル応答の解析を行い、若齢期においてResistant系マウスと比較して血中レプチン濃度が低く、過食傾向を示すProne系マウスにおいて、実際に摂食中枢におけるレプチンシグナルの強度が低いことを認めた。これらの結果は、体重増加が顕在化する以前の若齢期におけるレプチン動態の差異が、将来の過食による肥満、メタボリックシンドローム発症を規定する重要な因子であることを示唆している。
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