研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は、関連疾患である成人T細胞白血病(ATL)及びHTLV-1関連脊髄症を引き起こし、これらの関連疾患は一旦発症すると治療による治癒が未だに困難な疾患である。ATLがHTLV-1キャリアから高頻度に発症する、HTLV-1のプロウイルス量(PVL)が4%以上のキャリアのような高危険群には、積極的な介入策として関連疾患への進行阻止や発症予防を可能とする治療・予防法が必要と考えられているが、まだ確立されていない。そこで本研究では、発症のリスク因子の一つであるPVLを、プロウイルスを保持するHTLV-1感染細胞を標的化して駆逐することで減少させ、発症リスクを低減させる薬剤候補を開発することを目的とした。本年度我々は、HTLV-1感染細胞の表面マーカーであるヒトケモカイン受容体CCR4を分子標的とした組換えタンパク質、即ちCCR4のリガンドであるヒトCCL17/TARCを、CD91との結合部位を欠失させた緑膿菌エキソトキシンA(PE38)に連結させた融合タンパク質(TARC-PE38)を作製した。この薬剤候補は、特異的なCCR4-TARC分子間相互作用により選択的にHTLV-1感染細胞に結合した後、細胞内に取り込まれ、PE38の作用により標的細胞を殺傷すると考えられた。その有効性を検討するために、まずTARC-PE38をHTLV-1感染細胞株やキャリアの臨床検体に投与したところ、in vitroにおいて感染細胞株を効率よく殺傷し、臨床検体のPVLを明らかに減少させた。次に、重度免疫不全マウスにヒト臍帯血由来造血幹細胞を移植して作製したヒト化マウスに、HTLV-1感染細胞MT-2を接種して感染動物モデルを構築し、in vivoにおける治療効果を検討したところ、TARC-PE38投与によりマウス個体内のHTLV-1感染は著明に抑制された。
2: おおむね順調に進展している
本年度作製した、HTLV-1感染細胞の表面マーカーであるヒトケモカイン受容体CCR4を分子標的とした組換えタンパク質TARC-PE38の治療効果を、HTLV-1感染細胞株やキャリアの臨床検体を用いたin vitroにおいて検討し、さらには重度免疫不全マウスにヒト臍帯血由来造血幹細胞を移植して作製したヒト化マウスに、HTLV-1感染細胞MT-2を接種して構築した感染動物モデルを用いたin vivoにおける検討まで進めることができた。その結果、TARC-PE38の顕著な有効性を示すことができ、本研究は概ね順調に進んでいると言える。
今後は、HTLV-1感染細胞上のヒトTSLC1 (Tumor suppressor in lung cancer 1)を分子標的とした組換えタンパク質、即ちTSLC1のリガンドのヒトCRTAM (Class I-restricted T cell-associated molecule)の細胞外ドメインをPE38に連結させた融合タンパク質(CRTAM-PE38)も作製し、その有効性を検討する。この薬剤候補は、特異的なTSLC1-CRTAM分子間相互作用により選択的にHTLV-1感染細胞に結合した後、細胞内に取り込まれ、PE38の作用により標的細胞を殺傷すると考えられる。まずは、CRTAM-PE38のHTLV-1感染細胞株に対する治療効果をin vitroにおいて検証する。効果があれば、ヒト化マウスを用いたHTLV-1感染動物モデルを構築し、in vivoにおける検討に進める。また同時に、必要に応じて、TARC-PE38の改良や実験方法の改善を行う。これらのことにより、作製された薬剤候補を用いた新規治療・予防法の確立を推進する。
年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成27年度分についてはほぼ使用済みである。
上記のとおり。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Retrovirology
巻: 12 ページ: 1-14
10.1186/s12977-015-0199-8