条虫幼虫感染症であるエキノコックス症は、致死性かつ難治性の人獣共通寄生虫感染症である。エキノコックス症の特徴として、他の蠕虫感染で観察されるような宿主の好酸球の増多や強い炎症性反応が観察されないことが挙げられる。この抗炎症作用を発揮する候補分子として、エキノコックス幼虫の分泌産物に含まれるプロテアーゼが考えられているが、明確な解答は得られていない。そのため、本研究課題では、エキノコックス幼虫のプロテアーゼの性状解析を中心に実施した。 平成29年度は、酵母Pichia pastorisを用いて発現させたエキノコックス幼虫カテプシン様システインプロテアーゼ(EmCLP3)の性状解析を行った。ペプチド合成基質(Z-FR-MCA、Z-VVR-MCA、Z-LR-MCA、Z-RR-MCA)に対する加水分解活性を解析したところ、Z-RR-MCA以外の基質を分解することが明らかとなった。次に、それらの基質に対するpHプロファイルを測定したところ、Z-FR-MCAならびにZ-LR-MCAに対しては中性域に、Z-VVR-MCAに対しては酸性域に至適pHがあることが明らかとなった。また、タンパク質分子に対する活性を解析したところ、IgG、アルブミン、I型およびIV型コラーゲン、フィブロネクチンなどを分解する活性を有していた。これらの結果より、EmCLP3がエキノコックス幼虫の宿主内での発育・増殖に関与していることが示唆された。 さらに、新たにクローニングにしたマトリックスメタロプロテアーゼ様プロテアーゼ(EmMMP)に対するウサギ抗血清を用いたイムノブロット解析により、分子サイズ約60kDaの分子として包虫で発現していることが判明した。現在、EmMMPの酵素性状解析を行うために、活性型組換え酵素の発現を試みている。
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