研究課題
本研究の目的は、本来サルに感染するサルマラリア原虫Plasmodium knowlesiがヒトにも自然感染し重篤化して死亡する例が報告されていることから、P. knowlesiが感染したヒト赤血球の構造と原虫分子の局在、接着能の有無を明らかにし、サルマラリア原虫がヒト赤血球においても接着現象を起こしうるのか否かを解明することである。本研究の交付決定は平成27年10月であったため、交付決定以降の平成27年度の約五ヶ月間の研究は当初の実施計画の一つであるP. knowlesi感染赤血球の微細構造の観察について行うものとした。まず初めに、P. knowlesiについてサル赤血球及びヒト赤血球を用いてin vitroで培養し、実際にP. knowlesiがサル赤血球と同様にヒト赤血球においても感染・増殖できることを確認した。そこで、P. knowlesiが感染したサル赤血球及びヒト赤血球を材料として固定・脱水・樹脂包埋を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料ブロックを作製した。そしてTEMを用いてそれぞれの二次元の微細構造を観察した結果、P. knowlesi原虫や赤血球内部に形成される原虫由来の膜構造について形態は類似しており、サル赤血球及びヒト赤血球の間で構造の相違は見られないことが分かった。また、P. knowlesiが感染したサル赤血球表面には原虫由来のカベオラと呼ばれる特徴的な凹状構造が形成されるが、ヒト赤血球においても同様の構造が形成されていることが明らかとなった。これらの結果から、光学顕微鏡観察の結果と同様にTEM観察においても、P. knowlesiが感染したサル赤血球及びヒト赤血球の間に形態的な相違は見られないことが分かった。
3: やや遅れている
平成27年度では約五か月間の研究実施となったため、当初の実施計画の一つを行うのみとなった。そのため、同年度の計画として挙げていたもう一つの内容であるP. knowlesi感染赤血球表面の発現リガンドに対する抗体作製が実施できなかった。また、その発現リガンド候補である接着分子SICAvarには多数のコピーが存在し、どの分子が接着能を有するのか明らかではない。そこで、SICAvarに対する抗体を作製する前にまず血管内皮細胞に対するP. knowlesi感染赤血球の結合アッセイを行い、接着現象に関与する分子を特定することとした。
今後の研究計画として、P. knowlesi感染赤血球の接着現象に関与し接着能を有すると考えられるSICAvar分子を特定するため、まず血管内皮細胞に対するP. knowlesi感染赤血球の結合アッセイを行う。P. knowlesi感染赤血球と共に血管内皮細胞を培養してその内皮細胞に接着した感染赤血球を集め、このような結合アッセイを繰り返して内皮細胞に接着するタイプのP. knowlesi原虫を選択していく。そして、トランスクリプトーム解析によりそのような接着タイプの原虫において発現しているSICAvarを特定した後、この分子にエピトープタグやGFPなどを付与した組換え原虫を作製する。さらに、付与したエピトープタグやGFPに対する抗体を用いてP. knowlesi感染赤血球の免疫染色を行い、光学顕微鏡及びTEM観察により標的分子の輸送について解析する。
まず本研究の交付決定が平成27年10月であったため、残り約五ヶ月間で当初予定していた研究計画のうちP. knowlesi感染赤血球の微細構造について観察を行った。そして当該年度で予定していた感染赤血球表面に発現する接着分子に対する抗体作製を実施しなかったため、これに関する消耗品費を平成28年度の消耗品費として使用することにした。
予定していた接着分子の抗体を作製する前に、多数のコピーを持つ接着分子SICAvarに対して接着に関与する分子を特定するため、まず結合アッセイによって接着タイプの原虫を選択し、その後その原虫で発現しているSICAvarについてトランスクリプトーム解析を行う。これらの実験について試薬やディスポーサブル器具を購入するための消耗品費として使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Journal of Structural Biology
巻: 193 ページ: 162-171
10.1016/j.jsb.2016.01.003.
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 20213-20213
10.1038/srep20213.
Molecular and Biochemical Parasitology
巻: 204 ページ: 26-33
10.1016/j.molbiopara.2015.12.003.