研究課題/領域番号 |
15K08449
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
新倉 保 杏林大学, 医学部, 助教 (30407019)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エネルギー代謝 / マラリア原虫 / TCA回路 / フマル酸 / フマラーゼ / リンゴ酸 / リンゴ酸:キノン酸化還元酵素 / 赤血球ステージ |
研究実績の概要 |
プリンヌクレオチド生合成の副産物としてフマル酸が産生される。TCA回路が機能していないと考えられているマラリア原虫において、フマル酸はどのように代謝されるのか?この謎は未だに解明されていない。本研究では、まず、プリンヌクレオチドの生合成系とTCA回路の代謝ネットワークに関わる分子であると推測されるフマラーゼとリンゴ酸:キノン酸化還元酵素に注目し、フマラーゼおよびリンゴ酸:キノン酸化還元酵素をそれぞれ欠損させたマウスマラリア原虫を作出した。 フマラーゼまたはリンゴ酸:キノン酸化還元酵素欠損によるマラリア原虫への影響を解析するために、それぞれの欠損原虫をマウスに感染させた。その結果、フマラーゼ欠損原虫を感染させたマウスは、野生型原虫を感染させたマウスと同様、感染後8日目に脳症を引き起こして死亡した。一方、リンゴ酸:キノン酸化還元酵素欠損原虫を感染させたマウスでは脳症の発症は認められず、マウスの生存期間は野生型原虫を感染させたマウスと比較して著しく延長した。また、フマラーゼ欠損原虫とリンゴ酸:キノン酸化還元酵素欠損原虫のATP量を測定したところ、フマラーゼ欠損原虫のATP量は野生型原虫と同レベルであったが、リンゴ酸:キノン酸化還元酵素欠損原虫のATP量は野生型原虫と比較して著しく低下した。これらの結果から、リンゴ酸:キノン酸化還元酵素の欠損によってマラリア原虫内のATP量が低下し、マラリア原虫は弱毒化することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究成果によって、以下の知見を得ることが出来た。よって、本年度の目的は達成された。 1.フマラーゼを欠損させたマウスマラリア原虫とリンゴ酸:キノン酸化還元酵素を欠損させたマウスマラリア原虫をそれぞれ作出することに成功した。 2.リンゴ酸:キノン酸化還元酵素を欠損させることによってマラリア原虫内のATP量が低下し、マラリア原虫は弱毒化することが示された。これらの結果から、赤血球ステージのマラリア原虫においてリンゴ酸:キノン酸化還元酵素はエネルギー代謝に寄与していることが明らかになった。また、マラリア原虫におけるプリンヌクレオチド生合成系由来のフマル酸がエネルギー代謝に寄与している可能性が示された。 3.マラリア原虫において、フマラーゼはプリンヌクレオチドの生合成系とTCA回路の代謝ネットワークのfirst stepを担う重要な分子であると考えられる。しかし、赤血球ステージのマウスマラリア原虫のATP量は、フマラーゼを欠損させても野生型原虫と同レベルであった。この結果から、マウスマラリア原虫にはフマラーゼの欠損を補填する経路が存在する可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
1.フマラーゼを欠損させたマウスマラリア原虫のATP量は野生型原虫と同レベルであったことから、マウスマラリア原虫にはフマラーゼの欠損を補填する経路が存在する可能性が示された。そこで、マラリア原虫におけるフマル酸代謝を明らかにするために、野生型原虫とフマラーゼ欠損原虫の比較プロテオーム解析を行う予定である。 2.マラリア原虫のフマラーゼの欠損を補填する経路として、宿主由来フマラーゼを利用した宿主-原虫間連携フマル酸代謝が考えられる。そこで、宿主由来のリンゴ酸がマラリア原虫内へ供給され、エネルギー産生に寄与しているかどうかを明らかにするために、高濃度のフマル酸またはリンゴ酸存在下におけるマラリア原虫のATP量の変化を解析する予定である。 3.マラリア原虫のエネルギー代謝システムと宿主免疫回避・撹乱機構およびマラリアの病態発症機構との関係を解明するため、妊娠させたマウスや種々の免疫不全マウス(MHC class II-KO, IFN-γR1-KOマウスなど)を用いて解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの成果を国際的にアピールするために、9月18-22日にオーストラリア・ブリスベンで開催されるInternational Congress for Tropical Medicine and Malaria(世界熱帯医学会・マラリア学会)での発表を計画している。当該国際学会出席のための出張に係る費用として繰越した。
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次年度使用額の使用計画 |
マウスマラリア原虫はin vitro培養ができないため、マウスに感染させて増殖させる必要がある。そこで、実験材料であるマラリア原虫感染赤血球の供給源としてC57BL/6Jの雌200匹の購入を計画している。また、比較プロテオーム解析およびマラリア原虫のATP量測定のための消耗品の購入を計画している。さらに、これまでの成果を国際的にアピールするために、9月18-22日にオーストラリア・ブリスベンで開催されるInternational Congress for Tropical Medicine and Malaria(世界熱帯医学会・マラリア学会)での発表を計画している。
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