研究課題/領域番号 |
15K08449
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
新倉 保 杏林大学, 医学部, 助教 (30407019)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | マラリア原虫 / 妊娠 / 病態重症化 / 代謝活性 / MQO |
研究実績の概要 |
妊娠中にマラリアに罹患すると、非妊娠時より症状が増悪することが知られている。また、妊娠中のマラリアは母体だけでなく胎児にも重大な影響を与えることが知られている。妊娠中のマラリアに対する治療法は未だに確立されていないため、マラリア流行地において、妊娠中のマラリアは重大な社会問題となっている。 これまでの研究成果により、マラリア原虫が有する8種のTCA回路関連酵素のうち、マラリア原虫に特異的に保存されているリンゴ酸:キノン酸化還元酵素 (MQO) はプリンヌクレオチド生合成系とTCA回路との代謝ネットワークの鍵分子であり、赤内期マラリア原虫の代謝活性に重要な役割を果たしていることが示された。これらの研究成果から、MQOは妊娠時特異的なマラリアの病態重症化を抑制するための新規創薬標的になると期待される。そこで本研究では、まず、妊娠時特異的なマラリアの病態重症化とMQOとの関係を明らかにすることを目的とした。野生型原虫またはMQO欠損型原虫を妊娠マウスに感染させ、MQO欠損による原虫血症への影響を解析した。その結果、MQO欠損型原虫を感染させた妊娠マウスでは、野生型原虫を感染させた妊娠マウスと比較して原虫血症の増悪が抑制された。また、胎仔への影響を解析した結果、MQO欠損型マラリア原虫を感染させた妊娠マウスの出生仔の生存率は、野生型マラリア原虫感染マウスと比較して著しく増加した。これらの結果から、妊娠時特異的なマラリアの病態重症化にはMQOが関わることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究成果によって、以下の知見を得ることが出来た。よって、本年度の目的は達成された。 1.妊娠時特異的なマラリアの病態重症化にはMQOが関わることが示唆された。 2.妊娠中のマラリアの病態の重症化は、妊娠による免疫抑制が主な原因であると考えられてきたが、本研究成果によって、「妊娠宿主においてマラリア原虫の代謝活性が亢進することで病態が重症化する」という新たな病態重症化機構の存在が示唆された。 3.宿主であるヒトやマウスが妊娠すると、妊娠関連ホルモンの作用によって母体の赤血球造血が亢進し、末梢血中の幼若赤血球が増加することが報告されている。幼若赤血球は、成熟赤血球と比較して、マラリア原虫の代謝活性の亢進に関わるリンゴ酸や核酸前駆体などが多く含まれていることから、妊娠による幼若赤血球の増加が病態の重症化に関与している可能性が示された。
|
今後の研究の推進方策 |
1.妊娠中は、胎児に十分な栄養を供給するために母体の血中グルコース循環量や脂質成分が変化する。この変化は、マラリア原虫の代謝活性亢進に関わると推測される。そこで、ATP生成に基づき代謝活性を高感度に定量できるルシフェリン-ルシフェラーゼアッセイを用いて、妊娠中の血漿成分の変化と原虫の代謝活性との関係を明らかにする。 2.MQO欠損型マラリア原虫と核酸輸送体欠損型マラリア原虫、野生型原虫の比較プロテオーム解析を行い、マラリア原虫におけるプリンヌクレオチドの生合成系とTCA回路を介したエネルギー代謝システムの全体像を捉える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
これまでの成果を国際的にアピールするために、2017年11月5日~9日に米国ボルティモアで開催される米国熱帯医学会での発表を計画している。当該国際学会出席のための出張に係る費用として繰越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
マウスマラリア原虫はin vitro培養ができないため、マウスに感染させて増殖させる必要がある。そこで、実験材料であるマラリア原虫感染赤血球の供給源としてC57BL/6Jの雌200匹の購入を計画している。また、比較プロテオーム解析およびマラリア原虫のATP量測定のための消耗品の購入を計画している。さらに、これまでの成果を国際的にアピールするために、2017年11月5日~9日に米国ボルティモアで開催される米国熱帯医学会での発表を計画している。
|