研究実績の概要 |
寄生原虫Trypanosoma cruziを病原体とするシャーガス病に対する現行の治療薬は、効果や副作用の点で実用的でなく、新規治療薬開発が急務である。本研究は、申請者らの独自研究を発展させ、T. cruziの分裂増殖・変態・細胞侵入などを制御するCa2+チャネル(TcIP3R)を介するCa2+シグナリングを標的とした治療薬開発のための基盤研究を行う。平成27年度の研究成果は下記である。 1、これまでT. cruziアマスティゴートからトリポマスティゴートの変態にCa2+シグナリングが関わっているか不明であった。これはin vitroにおいてこの変態を誘導するアッセイ系がなかったためである。我々はこのアッセイ系を初めて確立した。さらにTcIP3Rノックダウン原虫と野生株を比較することで、この変態にCa2+シグナリングが関わっていることを明らかにした。(Hashimoto et al, 2015) 2、一般的にIP3RのIP3結合ドメインはN末端に存在し、本ドメインの発現はそのIP3結合能から、ドミナントネガティブ体として機能することが知られている。本研究で我々は200種以上のドミナントネガティブ体のスクリーニングを行い、TcIP3Rのドミナントネガティブ体を発現するT. cruziの作製に成功した。本原虫の電子顕微鏡解析から、TcIP3Rはミトコンドリアの機能維持に重要な機能を担うことを明らかにした。(Hashimoto et al, 2015) 3、TcIP3R mRNAのトランススプライシングを特異的に阻害する次世代アンチセンスオリゴ(モルフォリノアンチセンスオリゴ)の作製に成功した。本オリゴ処理により原虫の増殖能および宿主細胞への進入能が著しく阻害された。本オリゴは新規治療薬として有望である。(Hashimoto et al, 2016)
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