寄生原虫Trypanosoma cruziを病原体とするシャーガス病に対する現行の治療薬は、効果や副作用の点で実用的でなく、新規治療薬開発が急務である。本研究は、申請者らの独自研究を発展させ、T. cruziの分裂増殖・変態・細胞侵入などを制御するCa2+チャネル(TcIP3R)を介するCa2+シグナリングを標的とした治療薬開発のための基盤研究を行う。具体的には、本経路の分子特性を電子顕微鏡、生体イメージング、及び生化学的解析などにより明らかにすると共に、治療薬のリード化合物となり得る本経路の阻害剤を次世代アンチセンスオリゴ及び化合物ライブラリより同定する。その成果をもとに、トリパノソーマのCa2+シグナリングのユニークな点を顕在化するとともにその特異的阻害剤を新たに同定し、副作用のない治療薬開発で患者救済を目指す。 平成30年度は、申請者らが開発した細胞内Ca2+濃度をモニタリング可能な生体イメージングシステムを用いた薬剤スクリーニングを行った。具体的には、Ca2+濃度依存的に蛍光を発するタンパク質(R-GECO1)を高発現する原虫(昆虫型)に、TcIP3R mRNAに対する種々のモルフォリノアンチセンスオリゴを作用させ、そのCa2+シグナリングの阻害効果を検討した。また、TcIP3Rの結晶構造を明らかににし、その構造から、TcIP3Rを阻害するような化合物を作製する試みも続けている。大腸菌および真核細胞系を用いたTcIP3RおよびそのIP3結合領域と推測されるドメインについて、発現系の構築を試みたが、TcIP3Rは非常に不安定(Short-lived)なタンパク質であることがあることが明らかになっている。そこで、TcIP3Rを原虫にpTREXプラスミドベクターを用いて高発現させ、そこからTcIP3RまたはIP3結合ドメインの精製を試みた。
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