研究課題
エキノコックスは北半球の広い範囲に分布し、人獣に被害をもたらしている。エキノコックスを含む条虫類は消化管を持たず、虫体の表面全体から生存に必要な栄養素を摂取することが知られている。当研究では、エキノコックスによるグルコース摂取の仕組みに着目し、その分子機構の解明に取り組んでいる。これまでに、グルコース輸送を担うと予測される3種類のトランスポーター遺伝子の全長配列を取得し、うち2種類の受動輸送型トランスポーターについて、基質輸送能の特性を明らかにすることができた。平成28年度は、以上の成績について学術雑誌に投稿するための原稿作成を進め、近々投稿できる見通しである。上記の解析と並行して、エキノコックスのゲノム情報をもとにグルコーストランスポーター遺伝子を探索した結果、上述の3種類を含む計6種類の遺伝子を見いだすことができた。これらの遺伝子について、予測される消化酵素ペプチド配列をもとに安定同位体標識ペプチドを作成し、質量分析法を用いた膜タンパク質定量系をすでに確立することができた。今後は、各発育期の虫体材料を用いて各トランスポーターの発現パターンを明らかにする。当研究では、エキノコックスによるグルコース摂取機構に着目して研究を進めているが、グルコースの摂取に続く代謝の仕組みについても解析をおこなっている。これまでに、寄生虫に特徴的な嫌気的エネルギー代謝で重要な役割を担うと考えられているホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(以下EmPEPCK)の遺伝子全長の塩基配列を解読を終え、EmPEPCKの組換えタンパクの調製することができた。今後は、組換えEmPEPCKおよび虫体材料を用いてEmPEPCKの機能解析ならびに虫体における発現解析を進める予定である。
3: やや遅れている
研究協力者として当研究の推進に貢献していた樫出拓哉(日本大)が、都合により今後の研究に参加できなくなった。また、研究分担者である上家潤一(麻布大)が、平成28年度の10月から1年間の留学に従事することになった。従って、平成28年度の後半は、当研究の推進に関わるメンバーのうち2名を欠く状況となったため、研究推進が必ずしも順調ではなかった。
平成29年度より、研究代表者(松本)の所属研究室に若手教員1名(増田)が加わることになった。増田には、研究協力員として当研究に参加していただく予定である。また、平成29年度の9月には、研究分担者である上家が1年間の留学を終えて帰国する見通しである。上家は、質量分析法を用いた膜タンパク質定量を中心に担当する予定となっていることから、上家の帰国までに解析に必要な虫体材料の調製を済ませて、平成29年度後半の研究が円滑に進展するようにしたい。
当初計上していた予算のうち、物品費については、前年度に購入した実験用器具・試薬類をあわせて使用したため、今年度新たに使用した物品費が当初の見積もりよりも少額となった。また、研究補助学生への謝金の支払いを予定していたが、研究室内の諸事情により学生を含めた研究体制を整えることができなかったため、当初予定していた謝金の支払いはおこなわなかった。主に以上の理由により、次年度使用額が生じる結果となった。
平成29年度より、研究代表者の所属研究室に若手教員(助手)1名が新たに加わり、研究協力者(予定)として当研究に参加する予定である。これにより、研究進展のスピードアップが期待される。研究推進メンバーの増加に伴い、実験用消耗品の使用量が増加すると見込まれることから、平成29年度使用額の半分程度(40万円)を物品費に充てる。また、平成29年度は当研究の最終年度にあたるため、研究成果を関連学会等で積極的に発表したいと考えている。平成29年度使用額の残り半分は、学会参加のための旅費に充てる予定である。
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Parasitology
巻: 143 ページ: 1252-1260
10.1017/S0031182016000809