研究課題
エキノコックスは北半球の広い範囲に分布し、人獣に被害をもたらしている。エキノコックスが属する条虫類は消化管を持たず、虫体の表面全体から生存に必要な栄養素を摂取することが知られている。本研究では、エキノコックスによる体表面からのグルコース摂取の仕組みに着目し、その分子機構の解明に取り組んでいる。これまでに、グルコース輸送を担うと予測される3種類のトランスポーター遺伝子の全長配列を取得し、うち2種類の受動輸送型トランスポーターについて、基質輸送能の特性を明らかにすることができた。平成29年度は、以上の成績について学術雑誌に投稿するための原稿作成を進め、近々投稿できる見通しである。上記の解析と並行して、エキノコックスのゲノム情報をもとにグルコーストランスポーター遺伝子を探索した結果、上述の3種類を含む計6種類の遺伝子を見いだした。これらの遺伝子について、予測される消化酵素ペプチド配列をもとに安定同位体標識ペプチドを作成し、質量分析法を用いた膜タンパク質定量系をすでに確立した。今後は、各発育期の虫体材料を用いて各トランスポーターの発現パターンを明らかにする。本研究では、エキノコックスによるグルコース摂取機構に着目して研究を進めているが、グルコースの摂取に続く代謝の仕組みについても解析をおこなっている。これまでに、寄生虫に特徴的な嫌気的エネルギー代謝で重要な役割を担うと考えられているホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(EmPEPCK)の遺伝子全長の塩基配列を解読し、EmPEPCKの組換えタンパクの調製した。平成29年度は、好気的エネルギー代謝への分岐点に位置するピルビン酸キナーゼ(EmPK)の遺伝子解析も進め、近々全長配列が決定できる見通しである。
4: 遅れている
平成28年度に研究協力者が本研究に参加できなくなるなど当初の研究体制に変化があったが、平成29年度中に研究体制を十分に立て直すことができなかった。また、研究分担者2名のうち1名が、平成29年9月末までの1年間留学に従事した。当該の研究分担者には、膜タンパク質定量による各トランスポーターの発現パターン解析において中心的役割を担っていただく予定であったが、留学先での研究に専念していただくため、解析は中断とした。主に以上の理由により、研究推進が必ずしも順調ではなかった。
平成29年度より、研究代表者の所属研究室に若手教員1名が加わった。この若手教員には、平成29年度より研究協力者として当研究に参加していただく予定であったが、着任直後の状況では困難であった。平成30年度からは本研究に積極的に参加していだたき、研究の進展をはかりたい。また、平成29年9月末には留学していた研究分担者1名が帰国し、平成30年度からは本研究に本格的に取り組んでいただける予定である。研究の進展が遅れているため、当初の研究期間(3年間)を1年間延長することとした。次の1年間で当初の目標に到達できるように努めたい。
<理由> 当初計上していた予算のうち、物品費については、前年度に購入した実験用器具・試薬類をあわせて使用したため、今年度新たに使用した物品費が当初の見積もりよりも少額となった。また、研究補助学生への謝金の支払いを予定していたが、研究体制を整えることができず、また研究の進展も順調ではなかったため、当初予定していた謝金の支払いはおこなわなかった。主に以上の理由により、次年度使用額が生じる結果となった。<使用計画> 平成30年度は研究協力者の参加や研究分担者の復帰(留学より帰国)により、研究体制が再構築されるため、研究進展のスピードアップが期待される。これに伴い、実験用消耗品の使用量が増加すると見込まれることから、平成30年度使用額のうち約100万円を物品費(主に実験用消耗品)に充てる。また、平成30年度は当研究の最終年度にあたるため、研究成果を関連学会等で積極的に発表したいと考えている。平成30年度使用額の約45万円は、学会参加のための旅費に充てる予定である。
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Data in Brief
巻: 17 ページ: 180-183
https://doi.org/10.1016/j.dib.2018.01.004