研究課題/領域番号 |
15K08457
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森川 一也 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90361328)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 黄色ブドウ球菌 / esp / 集団不均一性 |
研究実績の概要 |
申請者らは少数の細胞に発現するブドウ球菌遺伝子群を見出し、限定的発現遺伝子esp (expression in minor subpopulation)と名付けた。本研究は、esp遺伝子群の役割を解明することで限定的発現に基づく新規な細菌特性を明らかにすることを目的とし、本年度はesp遺伝子群の強制発現株および破壊株の作成をにすすめた。 将来的に必要となる各種解析への対応を想定し、強制発現用プラスミドの作成にはGatewayシステムを応用した。これにより、今後組み換えタンパク質発現などに対応できる材料を構築した。強制発現プラスミドには恒常的に発現する転写プロモーターを用いた。これに各esp遺伝子の翻訳開始領域とコード領域を導入した。強制発現は全てのexp遺伝子について取得することができた。ただし、タンパク質レベルでの発現確認は行っておらず、esp遺伝子群に致死遺伝子が含まれるかどうかはさらに検討を重ねる必要がある。 破壊株の作成にも着手し、現在進行中である。また、トランスポゾンミュータントが利用可能な遺伝子については、当該機関から取り寄せる準備もすすめている。 強制発現株の一部ではすでに表現型が見られたものもあり、例えばコロニーの形態が異常となるもの、乾燥耐性度が変化するものなどが見出されている。今後は各遺伝子の機能についてさらに多角的な検討をすすめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度計画中の強制発現株の構築は全て完了した。さらに、強制発現が起こす表現型についての解析も一部すすめることができており、計画以上の進展である。一方、破壊株の作成は完了しておらず、早急にすすめる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず各esp遺伝子の破壊株を作成する。破壊株は、グラム陽性細菌の遺伝子組換え体を効率的に得ることができるpMADtetシステム(温度感受性ori、好熱性βガラクトシダーゼ、2種の薬剤耐性遺伝子マーカーを持つプラスミドを利用した、相同組換え体選別方法)を用いる。本方法は当研究室で常用しており簡便に組換え体の取得が可能である。 各強制発現株および破壊株の表現型を調べesp遺伝子群が果たす役割を明らかにする。本菌の日和見感染菌としての生活環境を考慮し、病原性や各種ストレス耐性等に焦点をあてる。また、現象自体は知られているがそのメカニズムが不明なものについて、esp遺伝子群が原因となっている可能性を明らかにする。 esp遺伝子群が集団の全体ではなく一部のみで働くことが重要である可能性も高い。例えば一部のesp発現細胞がesp非発現細胞の特性を変化させたり、細胞集団全体(例えばバイオフィルム)の特性変化を誘導したりする、などの現象を想定する必要がある。そこで、強制発現株と破壊株の混合集団の特性もあわせて検討する。 各esp遺伝子の発現メカニズムについては、遺伝学的変化(phase variationなど)によるだけでなく翻訳・蛋白質安定性制御等による場合もあり得る。また、全く確率的に生じるか環境に応答して発現が誘導されるかは様々であろう。本研究では、限定的発現遺伝子の発現が遺伝学的変化によるものかどうかを明らかにする。例えば、当該遺伝子にテトラサイクリン耐性遺伝子を融合させ、発現細胞を選択し、遺伝子配列を調べる。phase variationなどの既知の遺伝学的変化によらない限定的発現が見出された場合には、その未知メカニズム解明に向けた研究を別途計画する。
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