研究課題/領域番号 |
15K08458
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
星野 忠次 千葉大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (90257220)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 阻害化合物 / 薬剤耐性菌 / メタロβ-ラクタマーゼ / 理論薬物設計 / 有機合成 / X線結晶構造解析 / 酵素活性阻害 / 構造活性相関 |
研究実績の概要 |
β-ラクタマーゼは、ペニシリンなどで知られるβ-ラクタム系抗生物質を失活させる酵素の1種であり、薬剤耐性を示す細菌の多くがβ-ラクタマーゼを産生する。特にメタロβ-ラクタマーゼ産生菌は、イミペネムやカルバペネムなど抗生物質の切り札とも言える薬剤を含めて、ほぼ全てのβ-ラクタム系抗生物質に対する耐性を持つため、感染拡大が危惧されている。 病原細菌の薬剤耐性に対処するために、作用機序の異なる抗生物質あるいは抗生物質補助剤の開発は緊急の課題である。本研究では抗生物質補助剤の創出を見据えて、メタロβ-ラクタマーゼに対する阻害化合物を作出する。申請者らは既に、薬物スクリーニングにより、3種類の阻害化合物を同定した。このうちの2種は、申請者らが自ら有機合成したものである。さらにメタロβ-ラクタマーゼとのタンパク質共結晶の作出に成功し、同定した阻害化合物と標的との結合構造がX線結晶解析から明らかになっている。本申請研究では、同定された阻害化合物の改良を進める。 本年度は、同定化合物からの合成展開を中心に行った。同定された化合物と同程度の阻害活性を持つ化合物は作成できたが、より活性の増強した化合物は得られていない。また東京大学・創薬機構から化合物データベースの提供を受けて、同定化合物と類似構造を持つ化合物の計算機探索を行った。探索結果を参考に、実際に創薬機構から240種類の化合物の提供を受け、阻害活性の測定を行った。提供を受けた化合物の中には、同定化合物を超える強い活性の物質は見出せなかったが、阻害活性を持つ化合物と持たない化合物についての知見が蓄積された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規に設計し合成した十数種類の類似化合物の中には、先導化合物と同程度の阻害活性を持つものが得られた。さらに東京大学・創薬機構から提供を受けた化合物240種類についても阻害活性を測定した。その結果、構造活性相関に関する知見が集積された。 メタロβ-ラクタマーゼについて、タンパク質結晶が得られる条件が確立したことで、必要に応じて標的タンパク質と阻害化合物の結合構造が解明できるようになった。これにより、阻害活性の高い新規合成化合物を理論設計することが容易になった。また本研究では、先導化合物を足掛かりに、理論計算・有機合成・生化学実験を融合させ、標的タンパク質に対する阻害剤の開発を行うことを計画したが、いずれの研究分野も遂行できている。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、理論計算・有機合成・生化学実験を融合させ、メタロβ-ラクタマーゼを標的とした阻害剤の開発を進める。 1.X線共結晶構造解析から得られた構造情報をもとに、化合物と標的タンパク質との結合親和性を計算機で算出する。官能基付加や官能基置換を施した修飾化合物についても、結合親和性を予測する。この予測評価を繰り返して、有望な化合物構造を探索し、活性増加の見込める分子構造をデザインする。計算には申請者が独自に開発したOrientationソフトウェアを用いる。 2.計算機予測により有望と判断された構造を持つ化合物とその周辺化合物について、有機合成を行う。合成中間体も活性測定に使用する。同定された3種類の化合物のいずれについても合成展開をして、構造活性相関の手掛かりとする。 3.NDM-1もIMP-1も、抗生物質の1つであるセファロスポリン(Cephalosporin C)を分解する。セファロスポリンは、260nmに特徴的な吸収波長を持つので、紫外線分光法により容易に、β-ラクタム系抗生物質が分解する速度を測定する。合成された化合物の存在下で、NDM-1あるいはIMP-1によるセファロスポリンの分解速度の変化を測定し、合成化合物の酵素活性阻害能を求める。 4.合成化合物の存在下で、細菌が増殖する能力を定量化することで、細菌レベルでの阻害剤の効果を確かめる。初めにディスク法による阻止円の径の測定から化合物の有効性を確認する。その上で阻害化合物を混合させた液体培地を使って、メロペネムやイミペネム等の抗生物質の薬剤耐性菌に対する最小阻害濃度(MIC)を算出する。阻害活性測定の結果を、化合物の設計と合成に反映させて、候補薬物の最適化を繰り返す。
|