研究課題/領域番号 |
15K08463
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
清水 隆 山口大学, 共同獣医学部, 准教授 (40320155)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 野兎病 / 野兎病菌 / Francisella tularensis / 6型分泌機構 / ダニ |
研究実績の概要 |
本研究は野兎病菌の節足動物への定着機構およびヒトへの感染機構を明らかにすることを目的としている。 野兎病菌のダニへの定着機構を解明するため、日本における野兎病菌のダニへの定着状況を調査した。その結果、日本国内における野兎病菌はヤマトマダニ(Ixodes ovatus)とシュルツェマダニ(I. persulcatus)の2種類を主として維持されていることが明らかとなった。シュルツェマダニを用いた感染実験においても野兎病菌が感染後2週間以上にわったってダニの体内で維持されることが明らかとなった。また25℃で発現が増強する遺伝子であるhlyDの欠損株ではダニへの定着が減弱することが明らかとなった。これらのことから野兎病菌はダニの体内で維持され、その定着にはHlyDが必要であることが示唆された。 ヒトへの感染機構を明らかとするために野兎病菌がもつ6型分泌機構に焦点をあて、その機構の解明を試みた。6型分泌機構の分泌タンパク質の1つであるIglEを培養細胞内で発現させたところ、ゴルジ体やオートファゴソームに局在することが明らかとなった。また野兎病菌の野生株は培養細胞への感染後、ファゴソームを脱出し、細胞質内やオートファゴソーム内で増殖するが、iglE欠損株ではファゴソームからの脱出能が低下しており、ファゴソーム内で増殖することが明らかとなった。またIglEは細胞内でチューブリンに結合していることが明らかとなった。これらのことからIglEはチューブリンに作用することにより、ファゴソームからの脱出や、細胞質およびオートファゴソーム内での増殖に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は野兎病菌の節足動物への定着機構およびヒトへの感染機構を明らかにすることを目的としている。 節足動物への定着機構の研究において、野兎病菌のダニへを確認した。また、その関連遺伝子の同定に成功した。しかしながら、ダニは供試体の数に限りがあることや、サイズが小さいこと、生活サイクルが長いことなどから感染実験を繰り返し行うことが非常に難しく、データーを安定的に得ることが困難であることが明らかとなった。このため、今後予定しているトランスポゾン変異体の多検体感染実験・スクリーニングをで行うことが難しいと考えられる。そこで本研究では今後、カイコ(Bombyx mori)を用いた感染モデルを検討したい。 ヒトへの感染機構を6型分泌機構に焦点をあてて研究しており、こちらは当初の計画通りその機能解析が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
節足動物への定着機構の解明のためにダニでの感染実験を計画していたが、供試体の数を確保することが難しいため、カイコの使用を考えている。カイコは安価で入手性がよく、飼育サイクルが短いことから近年モデル生物としての有用性が注目されている。予備実験によりカイコに対してもダニと同様に野兎病菌が定着することを確認している。今後、カイコを使用した感染モデルによりトランスポゾン変異体を感染させ、カイコ内に定着することの出来ない変異株をスクリーニングすることにより節足動物内の増殖に必要な菌側の因子を同定する予定である。また、同定した遺伝子の変異体を作製し、ダニに感染させることによって、ダニへの定着に対する影響を検討したい。 ヒトへの感染機構の解析においては、6型分泌機構の機能解析を引き続き行う。リコンビナントIglEを作製し、IglEの生化学的作用を明らかにする。また、iglE以外の6型分泌装置関連遺伝子も同様に解析予定である。
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