本研究は野兎病菌(Francisella tularensis)の節足動物への定着機構及びヒトへの感染機構を明らかにすることを目的としている。 野兎病菌の節足動物への定着機構の解析では、カイコ(Bombyx mori)を用いた感染モデルを構築した。昆虫から分離される野兎病菌 (F. tularensis subsp. holarcica [F. holarctica])はカイコに定着するのに対し、主に水系から分離される野兎病菌 (F. tularensis subsp. novicida [F. novicida]) はカイコに病原性を示すことが明らかとなった。このことから、本カイコモデルはF. holarcticaを用いることで菌の昆虫宿主内での動態の解析に、F. novicidaを用いることで病原性の解析に利用できることが示唆された。このカイコとF. novicidaのモデルを用い、野兎病菌の病原性因子を解析中であり、現在これまでに報告のない数個の新たな病原遺伝子の同定に成功している。 ヒトへの感染機構については昨年度に引き続きVI型分泌機構に焦点をあてて研究を継続している。VI型分泌機構はヒトへの感染及び細胞内での増殖に必須であるが、その詳しい分子機構は明らかとなっていない。本年度の研究では新たにエフェクターの1つであるIglCに着目し研究を進めた。IglCを欠損させると、細胞内増殖が顕著に抑制された。また、IglCの結合タンパク質を免疫沈降法やツーハイブリッド法で探索した結果、シャペロンタンパク質のHSC70やユビキチンライゲースのRING2が検出された。また、ユビキチンプロテアソーム系の阻害剤はIglC欠損株の細胞内増殖を増強した。これらのことからIglCはユビキチンプロテアソームを阻害することにより細胞内増殖を増強すると考えられた。
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