研究課題
炎症性サイトカインであるinterleukin (IL)-17Aは結核菌に対する感染防御に重要な役割を担っている。そのIL-17Aとアミノ酸レベルでの相同性が非常に高いIL-17Fも粘膜組織における感染防御に積極的に参加していることが報告されている。そこで、結核菌感染肺におけるIL-17Fの関与を検討したところ、感染早期ではIL-17A同様、感染防御に働くが、感染後期においてはその効果が非常に低くなることが明らかになった。この現象は結核菌感染の病態形成時のIL-17AとIL-17Fの産生細胞とその局在性の相違に起因しているのではないかと推定した。今年度は、これまで得てきたIL-17Aの感染防御機構とIL-17Fのそれとを比較検討した。Mycobacteria bovis BCG感染肺におけるIL-17Fの発現動態を調べたところ、感染後IL-17Fの発現増強傾向が認められた。そこで、IL-17F産生細胞の同定を試みた結果、リンパ球からのIL-17F産生は観察できず、IL-17F産生細胞は非造血系細胞である可能性が考えられた。さらに、IL-17FのBCG感染肺における局在を検討したところ、肉芽腫内部にはIL-17Fはほとんど認められず、肉芽腫の周囲に存在していた。マイコバクテリア感染早期では、肉芽腫近位のIL-17Fが肉芽腫成熟を誘導し、菌の封じ込めに働くが、肉芽腫構造がさらに拡張する感染後期では、IL-17F産生細胞が肉芽腫の中心から遠ざかるために、IL-17Fの影響が減弱になることが明らかになり、IL-17AとIL-17Fの機能分担がその局在性により規定される可能性が示唆された。
3: やや遅れている
同定したIL-17F産生細胞の亜集団をIL-17F KOマウスに養子移入し、その後に結核菌を肺感染させ、経時的に肺に形成された肉芽腫をイメージ解析処理し、定量的に測定するという計画でいたが、結核菌感染時でのIL-17Fを産生する細胞集団が非造血系細胞であったことから、養子移入の実験系を組み立て直さなけれならず、停滞している。さらに、研究に使用するIL-17F KOマウスは自家繁殖させているが、飼育室の空調改善があり、繁殖が大幅に遅れている。現在は常時実験に利用できるマウス肺胞上皮細胞株を入手し、in vitroの系でのIL-17F産生メカニズムを解析すると共に、これまでに採取したマウス感染肺の凍結試料を用いてIL-17Fの結核感染に於ける病態形成への影響を調べる実験系にシフトしている。
結核菌感染に対するIL-17F依存性防御機構の解明を引き続き遂行する予定である。具体的には、以下の解析を行う。1)結核菌感染による肺組織におけるIL-17依存性一酸化窒素(NO)産生誘導機構の解析:細胞内寄生性細菌に対する生体防御機構の一つであるNOを産生する誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現誘導にIL-17Fが関与か否か検討する。関与することが明らかになれば、IL-17F依存性NO産生誘導機構の解明を試みる。2) 結核菌感染による肺組織における抗菌性ペプチド産生誘導機構の解析:抗菌性ペプチドの一種であるβ-defensinが結核菌感染において発現誘導されることが明らかになっている。IL-17Fが結核菌感染肺においてβ-defensin等の抗菌性ペプチドの誘導能を有するのか検討する。3) IL-17F依存性肉芽腫形成へのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)の関与の検討:MMP-9が結核菌感染において誘導され、肺での肉芽腫形成に深く関与することが報告されている。IL-17F KOマウスモデルで、結核菌感染肺の病態形成へのMMPの関与を免疫染色法およびZymogramゲル電気泳動法で調べる。また同時に、IL-17FのMMPs発現誘導による他臓器への結核菌の播種の度合いは、経時的な臓器内菌数を指標に算定する。
本研究を遂行するにあたり最も重要な遺伝子組換え動物(IL-17F KOマウス)の繁殖・飼育管理が動物飼育室の空調改修工事により不具合が生じたため、研究補助員の雇用費(人件費)が計上額より少額になった。また、使用マウスの繁殖が滞ったため、予定していたマイクロアレイの解析(外部委託)が遅延し、平成29年度に行うことになった。よって、約500千円の予算を次年度に移行することとなった。
遺伝子組換えマウスの繁殖・飼育管理に対する人件費として、また遅延したマイクロアレイ解析の外部委託費に使用する。
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