研究課題/領域番号 |
15K08471
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
大崎 敬子 杏林大学, 医学部, 准教授 (90255406)
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研究分担者 |
高橋 志達 杏林大学, 医学部, 非常勤講師 (30701099)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 常在細菌叢 / Helicobacter pylori / 連続流動培養法 |
研究実績の概要 |
Helicobacter pyloriの感染は小児期にみられ、日本における主なルートとは家族内感染と考えられている。家族内感染の詳細を明らかにするため、家族内から分離された菌株の遺伝子タイプを調べて、その類似性から母子感染や両親から子への感染の頻度が高いことを示した。また、父親由来(K21株)、母親由来(K22株)の菌株の遺伝子タイプが、子供3人から分離した菌株(K23,K24,K25)株と異なっていることが明らかとなった1例では、家族外由来の菌株が同胞間で水平感染したものと推察された。 遺伝子タイプがほぼ同じと考えられたH. pylori K23、K24、K25株を全ゲノムで詳しく比較すると遺伝子変異は、外膜タンパク質や病原因子に多く認められた。これらの変異はH. pyloriが宿主に持続感染する際に生じたと考えられ、細菌が新しい宿主へ順応するための変異である可能性が示唆された。 また、この家族では子供の保有した菌株の感染性が最も強いと考えられたため、複数の分離菌株を用いてスナネズミ(MGS/Sea)への感染性を比較した。K21株あるいはK22株を感染したスナネズミに10日後にK25株を経口投与し、5週後に感染菌を調べると分離培養された菌は全てK25株であった。また別の実験系ではK25株を投与し、K21株またはK22株を後から投与して5週後には、同様にK25株のみが検出された。 家族内で優位な感染性を示した菌株が動物実験においても強い感染性を示した原因を調べるために、増殖速度、耐酸性を調べたが、K25株はいずれも中等度の強さであった。胃癌由来AGS細胞への付着性を比較したところK25株はK21株、K22株と比較して有意に高い付着性を示した。これらの結果より、胃上皮細胞への付着性の強さがK25株の感染の強さに関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細菌叢と外来病原細菌の相互作用を明らかにするため、H. pyloriを感染させた動物に認められる消化管細菌叢の変化を解析した。スナネズミ(MGS/Sea)は供給中止により、系統の異なるスナネズミ(MON/JmsGbsSlc)を使い、易感染性を示すH. pyloriTK1402株とK25株をそれぞれ単独投与した。その結果、TK1402株を用いた実験で投与2カ月以上H. pyloriが培養可能な状態で生存したのに対して、K25株は感染2週間後から培養検出限界以下となった。 感染2か月後にスナネズミの胃ならびに小腸を回収してDNAを抽出し、16SrRNA 遺伝子の可変領域(V2、V3、 V4、V-6-7、V8、V9)をターゲットとする複数のユニバーサルプライマーを用いて増幅した。増幅産物は次世代シーケンサーIonPGMによるシークエンス解析を実施中である。 常在細菌叢とH. pyloriの相互作用をin vitroの培養で解析するために、連続流動培養系の確立を行った。5%馬血清添加Brucella液体培地にて毎時5%の割合で培地交換をする微好気条件下で全てのH. pylori菌株は増殖可能で、一定の菌数で維持された。従って今後細菌叢の培養を行い、in vitroでの細菌叢とH. pyloriの相互作用を検討する予定となっている。 H. pylori K25株またはK21株を先住菌として培養後に、別の菌株(外来菌)を摂取する混合培養実験を行った。3日の混合培養条件下では外来菌は、先住菌の増殖に影響を与えず、接種した菌数のまま維持された。本研究結果から、H. pyloriの遺伝子タイプの異なる菌株を異なる菌数比率で混合培養することが可能で、培養3日目まで一定の比率で共存が可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
微好気連続流動培養系で遺伝子タイプの異なるH. pylori菌株を組み合わせた混合培養を実施する。3日間の培養では、先住菌の菌量と接種菌量に依存したまま変化なく維持されたが、さらに長期間連続培養を続けて変化があるかどうかを確認する。どちらかの菌株が減少する場合には、そのメカニズムを明らかにするため、トランスクリプトーム解析を実施する。 27年度に動物実験を行って解析したメタゲノム解析の結果からH. pyloriに対して抑制効果を示す常在細菌叢の探索を行い、一定の菌叢を決定する。その菌種構成を連続流動培養法で再現し、H. pyloriと混合培養を実施して、生存菌数の確認を実施する。 28年度11月以降に無菌動物を使った常在細菌叢の定着と、H. pyloriの感染を実施する。29年1月までに動物実験からのサンプリングを終了して、29年2月以降にメタゲノム解析およびトランスクリプトームの実施とデータ解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会における発表費用として計上した金額を、他の研究助成金で賄うことができたため、出張旅費の支出がなかった。 平成27年度実施予定であったメタゲノム解析の結果が解析中であるため、次回の動物実験を実施する予定が遅れ、次年度に実施する実験動物購入費用として残した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度実施できなかった動物実験を28年度に実施するため、実験動物購入費用として使用する。
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