研究課題/領域番号 |
15K08471
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
大崎 敬子 杏林大学, 医学部, 准教授 (90255406)
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研究分担者 |
高橋 志達 杏林大学, 医学部, 非常勤講師 (30701099)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Helicobacter pylori / スナネズミ / 連続流動培養 |
研究実績の概要 |
胃や腸管に存在する常在細菌叢が外来病原細菌の感染に及ぼす影響と、病原性細菌の感染により影響を受けるという現象を明らかにするために本研究を実施している。平成28年度には、感染性の異なるH. pylori TK1402株(高感染性)およびK25株(低感染性)を用いて、スナネズミ感染実験を実施した。感染2、8週後においてK25株は胃から培養法で検出されず、胃内細菌叢がH. pylori の増殖に抑制的に働いている可能性が考えらた。しかし、感染10カ月後のスナネズミにおいてK25株が培養可能となり、胃内細菌叢のH. pyloriK25株に対する抑制作用は限定的と考えられた。さらに、高感染性株感染スナネズミからは感染早期から培養可能な状態で、胃内にH. pyloriが検出された。感染動物の胃内細菌叢の主成分(PCoA)解析の結果により、両菌株の感染スナネズミの細菌叢は異なる領域にプロットされた。この結果は、胃内細菌叢がH. pylori感染の影響により変化を受けていることを示唆する結果と考えられた。本研究結果より、H. pyloriの感染は、胃内細菌叢に強い影響をもたらすことが示された。 スナネズミ小腸菌叢解析の結果、K25株感染はTK1402株感染と比べて高頻度にH. pylori DNAを検出した。従って、TK1402株とK25株は感染棲息部位が異なり、TK1402株は胃体部から、K25株は十二指腸側の幽門部から棲息域を広げてると考えられた。胃内に棲息する細菌の部位別解析を実施する必要が示唆された。小腸細菌叢のPCoA解析では有意差を認めなかった。 H. pylori TK1402 株およびK25 株の動物通過菌を用いてin vitroでの増殖性を比較するため、微好気環境下における連続流動(CF)培養をそれぞれの菌株で実施した。継時的に培養液を回収し電子顕微鏡による観察を実施した結果、培養期間の経過とともに螺旋状菌と球状菌の比率に変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スナネズミを用いたH. pylori 感染実験と胃・十二指腸細菌叢の解析を実施した。平成27年度は、予定していた菌株がスナネズミに定着ないなどのトラブルで実験が遅れていたが、28年度に菌株を変更して、定着菌数の差のある動物実験モデルを確立した。また、菌株ごとに感染定着部位の差異があるという新たな問題点も見つかったため、今後の解析課題に加えることとした。 連続流動培養装置で、本菌の培養性状と、定着菌数を定量した。以上の結果を第50回日本細菌学会総会に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1.連続流動培養法を用いた腸内細菌叢の培養とH. pylori の混合培養 連続流動培養装置を使って、スナネズミ胃内常在細菌叢とH. pylori の混合培養を実施する。常在細菌叢が定常期に達している培養系に、H. pylori を接種し、増殖可能であるかどうかを確認する。常在細菌叢の構成を組み立てて培養に用いる。DNA を回収して、16Sメタゲノム解析を並行して実施する。培養液中の総RNAを回収し、メタトランスクリプトーム解析を実施する。 2.スナネズミ腸内常在細菌叢 感染性の異なるH. pylori TK1402株およびK25株のスナネズミ感染モデル動物から、十二指腸上皮組織、空腸、回腸のサンプルを集め、それぞれの部位ごとの細菌叢を解析し、感染菌数の差による、腸内細菌叢に対する影響を判定する。また、同じサンプルの総RNAを回収し、メタトランスクリプトーム解析を実施する。 以上の結果と前年までの結果と併せて、H. pyloriと胃内常在細菌叢の相互作用の観点から、病原体に与える常在細菌叢の影響と、病原体が細菌叢に与える影響の両者を考察し、研究成果の総括並びに論文発表にむけて準備を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
スナネズミの無菌化のための費用を外部委託費用として計上していたが、未だ作成されていないため年度内に使い切ることができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
スナネズミを無菌化することは難しいため代わりに、連続流動培養を使って、常在細菌叢の役割を解析する。
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