研究課題/領域番号 |
15K08472
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
山田 剛 帝京大学, 医真菌研究センター, 准教授 (80424331)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 痒み / 白癬 / 白癬菌 / プロテアーゼ / トリプシン |
研究実績の概要 |
”痒み”は代表的な皮膚真菌症である白癬における特徴的な臨床症状の一つである。痒みは複数の機構を介して発生していると考えられるが、その機構は未だ不明な点が多い。最近、マウスの掻き動作を指標に確立された痒みの動物評価モデルを基に、白癬における痒みの発生メカニズムが解析され、「皮膚表層の大部分を占める表皮ケラチノサイトの膜受容体(Protease-activated receptor 2, PAR-2)が痒みの発生に関与していること」、そして「本症起因菌である白癬菌がPAR-2のポリペプチド鎖を特定の部位で切断し活性化させるトリプシン様プロテアーゼを産生すること」などが報告された。本研究の目標は、白癬菌が産生するトリプシン様プロテアーゼを同定すると共に、PAR-2の活性化を介して発生する痒みのメカニズムに関する知見を得ることである。 上記の目標に到達するために、白癬菌Arthroderma vanbreuseghemiiを用い、平成27、28年度を通じて、トリプシン様プロテアーゼ(trypsin-like serine protease, 以下AvTLSPとする)の同定を進めてきた。白癬菌のゲノムシーケンスデータを利用して候補となる複数の遺伝子を選抜し、cDNAを単離して組換えタンパク質(rAvTLSPs)の作出、そして遺伝子操作株の作出を進めてきた。酵母Pichia pastorisにおいて組換えタンパク質の発現に成功したものについては、酵素化学的解析を進めてきた。その一方で、同定を目指しているAvTLSPは白癬菌の菌体内(または表面)に局在する可能性もあることから、A. vanbreuseghemiiの菌糸由来細胞抽出液を調製し、カラムクロマトグラフィーによるAvTLSPタンパク質の精製を進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27、28年度を通じて、独自に解読したA. vanbreuseghemii(非公開)のゲノムシーケンスデータを含む複数の白癬菌のゲノムシーケンスデータを利用して、トリプシン様の基質特異性(アルギニンのC-末端側を切断する)を有するAvTLSPの候補に関する検討を重ね、選抜した3個の遺伝子について、cDNAの単離および酵母P. pastorisを利用した組換えタンパク質(rAvTLSP)の作製を進めると共に遺伝子操作株の作出を行ってきた。単離したcDNAのうち、AvTLSP1(AvARB_01633)を導入したP. pastorisにおいて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動などの解析を通じて特異的産物の発現が確認されたため、組換えタンパク質(rAvTLSP1)の精製および活性・基質特異性の解析を行った。しかしながら、rAvTLSP1は主に疎水性アミノ酸残基のC-末端側を切断する可能性が高いことがわかり、目的とするプロテアーゼではないものと示唆された。現在、残り2個の候補遺伝子を導入したP. pastorisについて、発現条件の検討を行っているところである。 一方、A. vanbreuseghemii菌糸由来細胞抽出液を用いたカラムクロマトグラフィーによるAvTLSPタンパク質の精製においては、第一ステップとなる硫安分画の際、40-70%飽和画分にトリプシンの合成基質(N-p-Tosyl-Gly-Pro-Arg-p-nitroanilide)に対する反応性が認められることから、この画分を回収し、脱塩・限外濾過膜による濃縮の後、アフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過による精製を進め、合成基質に対する反応性の高い画分を得ている。現在、本画分の更なる精製を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27、28年度を通じてブラッシュアップした3個のAvTLSP遺伝子について、cDNA(AvTSLP1-3)の単離ならびにP. pastorisにおける組換えタンパク質の発現・精製を試みると共に、in vivo解析に向けた遺伝子操作株(破壊株)の作出を進めてきた。組換えタンパク質の発現・精製においては、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)などの解析によりAvTLSP1(AvARB_01633)を導入したP. pastorisでの特異的産物の発現が確認されたため、組換えタンパク質の精製および基質特異性解析を実施したが、組換えタンパク質は主に疎水性アミノ酸残基のC-末端側を切断する可能性が高く、AvTLSP1は目的とするプロテアーゼの遺伝子ではないものと示唆された。現在、残り2種類のcDNAを導入したP. pastorisについて、特異的発現産物を得るための条件検討を進めており、平成29年度中に組換えタンパク質の発現および基質特異性の解析を行う予定である。 一方、平成28年度より進めているAvTLSPタンパク質のカラムクロマトグラフィーによる精製については、硫安分画に始まる一連の精製プロセスを経て、トリプシンの合成基質に高い反応性を示す画分が得られており、PAGE解析を通じて、AvTLSPの可能性が予想されるバンドの存在を確認している。今後、精製レベルをさらに高めた上でN-末端アミノ酸配列解析を行い、得られた解析結果を基に遺伝子を同定・単離する。そして、P. pastorisを用いた組換えタンパク質の作出、組換えタンパク質による痒みの誘導の有無を解析する。また、AvTLSPのカラム精製スケールをアップし、得られたAvTLSP精製タンパク質を用いて同様の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
複数の白癬菌のゲノムシーケンスデータを基に選抜した3種類のAvTLSP候補遺伝子について、P. pastorisにおけるcDNAの発現および組換えタンパク質の作出を試み、AvTLSP1(AvARB_01633)が目的とするAvTLSP遺伝子ではないことが示唆された。その一方で、カラムクロマトグラフィーを用いた菌糸由来細胞抽出液からのAvTLSPタンパク質精製において、硫安分画→オープンカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーというシンプルな精製プロセスにもかかわらず、トリプシン活性を示す画分が得られている。本画分のPAGE解析の結果、AvTLSPである可能性が予想される特異的バンドの存在も確認された他、精製レベルもある程度上がっていると考えられる。このような状況から、遺伝子工学研究に関連した費用の支出を抑制することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度においては、残り2種類のcDNA を導入したP. pastorisにおける組換えタンパク質の発現・精製および基質特異性の解析を急ぐ。一方、カラムクロマトグラフィーによる精製が進んでいるAvTLSPタンパク質について、さらに精製度を高めた上でN-末端アミノ酸配列の解析を実施し、得られた結果を基にゲノムシーケンスデータを利用してAvTLSP遺伝子を同定・単離する。単離したAvTLSP遺伝子については、P. pastorisでのcDNAの発現・組換えタンパク質の作出を試み、”マウス痒み評価モデル”を用いたin vivoの解析を実施する。同時に、AvTLSPのカラム精製スケールをアップし、得られた精製タンパク質を用いた同様の解析を実施する。このような研究課題を遂行するために、平成28年度に生じた余剰分の費用を平成29年度に申請する費用と併せて使用する予定である。
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