ボツリヌス神経毒素はボツリヌス菌によって産生される蛋白毒素でA型からG型に分類されている。中でもボツリヌスC型およびD型毒素は、他の毒素型と比べて受容体結合の特異性や宿主特異性が異なり、特有の作用機構を有していると考えられる。本研究の目的は、多能性胚性癌細胞株であるP19細胞を用いてボツリヌス毒素の細胞内侵入機構と細胞内局在性を明らかにすることである。そこでまず、毒素感受性細胞であるP19細胞に対してゲノム編集技術を用いて、C型毒素受容体であるガングリオシドを欠損させた細胞(G-KO細胞)を作製した。この細胞のC型毒素に対する感受性を調べた結果、G-KO細胞は毒素に対する感受性が完全に消失し、細胞内に毒素が取り込まれないことが確認できた。次にC型毒素の細胞内侵入機構を明らかにするため、種々のエンドサイトーシス阻害剤の影響について調べた。その結果、クラスリン阻害剤、ダイナミン阻害剤、カベオラ阻害剤のいずれも毒素の取り込みおよび細胞内活性を阻害しなかったが、液胞型プロトンポンプ阻害剤であるバフィロマイシンA1処理では毒素の細胞内活性が阻害された。また、種々のエンドソームマーカーとC型毒素の共局在を調べた結果、一部共局在がみられたものの、毒素のほとんどはこれらマーカーとは異なる局在性を示した。さらに開口放出を阻害した状態で毒素の取り込みおよび細胞内活性を調べた結果、阻害状態でも毒素の取り込み、活性がみられた。以上のことから、ボツリヌスC型毒素はクラスリンおよびカベオラ非依存的なエンドサイトーシス経路で、かつシナプス小胞リサイクリングにも依存しない独自の経路で細胞内に侵入することが考えられた。以上の成果に加え、最終年度はP19細胞を用いてボツリヌスA1毒素、A2毒素の活性の差異についての検討を行い、A1、A2毒素の活性の違いが毒素のもつ細胞内移行活性に由来することを明らかにした。
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