研究課題
毎年17億人もの小児が発症する下痢症は、5歳未満の小児においては死亡原因が第2位となる重大疾患である。先進国では国や自治体の積極的な取り組みによる衛生状態の改善、また、近年の社会的な衛生意識の向上も寄与する形で自国由来の細菌性下痢症が減少したが、工業技術の発展と国際化による人や物の移動量の劇的増加によって渡航者下痢症という形で増加してきた。一方、発展途上国では衛生水準が低く、依然として細菌性下痢症が頻発し、前述の小児患者数、死亡数の大半を占める。私は、ケニアで発生した原因菌が不明な感染性下痢症患者の糞便から腸管凝集性付着大腸菌耐熱性エンテロトキシン(astA)遺伝子を有するEASTECが高頻度に分離されることを明らかにした。EASTECは、健常人からも単離されることなどから、現在でも下痢厳正大腸菌のカテゴリーには含まれていない。そこで、ケニアのマンデラ地方の下痢症アウトブレイク発生時のEASTECについて、共同研究者の長崎大学熱帯医学研究所ケニア拠点研究者と現地研究者による調査チームの協力によって採取された検体試料を調べた。マンデラ地方の健常人から採取された糞便試料においてEASTECの検出を行ったところ、検出頻度は低いが、健常人の糞便からもEASTECが検出されることが明らかになった。しかしながら、これら健常人由来のEASTEC株をパルスフィールドゲル(PFGE)のフィンガープリント法で分析すると、菌株間で多様なパターンを示し、非同一株であることが判明した。また、これら健常人由来菌株のパターンと患者由来菌株のパターンは大きく異なることから、全く異なる菌株であると考えられた。一方、患者由来EASTEC株の病原因子の候補とされるastA産物の生物活性を調べるため、astAを発現ベクターにクローニングした。
4: 遅れている
研究代表者の異動のため、所属機関の変更により研究環境が大きく変わり、研究課題の遂行のために研究環境の構築が必要となった。研究代表者は新たな所属機関での研究実施場所の確保や整備に時間を費やし、当初の計画で予定していた塩基配列解析、及び、組換えタンパク質の発現解析に遅延が生じている。これら解析を実施し、本研究課題遂行のため補助事業期間の延長を申請した。一方、疫学的調査地のケニアでは2017年に大統領選挙が行われ、選挙前後では部族間の衝突が激化、11月28日ケニヤッタ大統領就任(再任)後も大統領選挙の結果を巡り与野党支持者の間でナイロビを含む各地で散発的に衝突が発生し、国内情勢が不安定化している。しかしながら、共同研究者の協力のお陰で疫学調査、及び、試料の保管、検査では影響はあるももの阻止をされることなく行えた。
本年度はケニア、マンデラ地方の下痢症患者、健常者由来のEASTECの分子疫学的違いを明確にし、astA産物の生物学的活性を調べ、本研究課題の総括を行う。
研究代表者の異動があり、所属機関の変更により研究環境が大きく変わっために研究環境の構築が必要となった。そのため、当初の計画で予定していた塩基配列解析、及び、組換えタンパク質の発現解析において遅延が生じて次年度使用額が生じた。これら解析を実施するための解析機器、及び、その関連試薬の購入費用に使用する。
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