研究課題/領域番号 |
15K08484
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
楠本 正博 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門 細菌・寄生虫研究領域, 上級研究員 (40548210)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腸管出血性大腸菌 / EHEC / O157 / 志賀毒素 / IS |
研究実績の概要 |
志賀毒素(Stx1およびStx2)は、腸管出血性大腸菌(EHEC)の主要な病原因子の一つである。昨年度の検討により、IS629 TPaseはstx2遺伝子の発現およびStx2ファージの誘導に関与することが示唆された。本年度は、O157ゲノム上でIS629 TPaseが結合する部位を特定するためのChIP-seq解析に必要な、TPase変異体のデザインについて検討した。 IS629 TPaseによるISの転移は[1] DNAへの結合、[2] DNAの切断、[3] 別の部位への挿入という3段階の機構により行われる。本研究ではChIP-seq解析によりTPaseのDNA結合部位を特定するために、反応がIS転移機構[1]で止まるTPase変異体を用いる必要がある。検討の結果、IS629 TPaseにおけるIS転移機構[2]以降の反応に重要と思われるDDEモチーフの各アミノ酸をアラニンに置換および三重置換(ΔDDE)すると、TPaseの切り出し(DNA切断)活性が著しく抑制された。 また、ChIP-seq解析に必要なアフィニティータグ(FLAG)に関する検討の結果、IS629 TPaseのC末端にFLAGタグを融合させると、IS切り出し効率が著しく低下した。TPaseへのタグの融合はIS切り出しへの影響が大きく、転移複合体においてIS629 TPaseの末端領域がDNA(または他の転移関連因子)と相互作用している可能性がある。 さらに、本研究ではStxの産生性やバリアント型などの異なる大腸菌株についてIS629 TPaseのStx産生への関与をO157 Sakai株と比較する予定である。その際に使用する大腸菌株として、約100株の牛由来EHEC(Stx1a、Stx2a、Stx2cの単独あるいは複数産生株)と、約400株の豚由来志賀毒素産生性大腸菌(Stx2e産生株)を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ChIP-seq解析では、ターゲットのIS629 TPaseについて、その末端にアフィニティータグを持ち、かつTPase活性の一部を制限した(DNAに結合するが、切断はしない)変異体が必要である。平成28年度は、ISの切り出しを大腸菌の薬剤耐性の変化に反映させて定量する系(Kusumoto et al., Nat. Commun. 2, 152)を用いて、作製したIS629 TPase変異体の評価を行い、ChIP-seq解析に適した変異体を得た。実際の解析は平成29年度に持ち込むことになったが、並行してStxの産生性やバリアント型の異なる菌株を用いた検討(平成29年度に実施予定)の一部を前倒しして行うことにより、全体的には予定通りに進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に作製したIS629 TPase変異体を用いて、平成29年度は次世代シークエンサーを用いたChIP-seq解析により、O157ゲノム上でIS629 TPaseが結合する部位を特定し、IS629 TPaseの供給がStx2の発現またはStx2ファージの誘導を引き起こすメカニズムを解析する。また、Stxの産生性やバリアント型などの異なる大腸菌株について、今年度に収集した株を用いてIS629 TPaseのStx産生への関与をO157 Sakai株と比較する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度の終盤に購入しようとした試薬が年度内に届かない見込みであることが判明したため、次年度に購入することにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に間に合わず購入できなかった試薬を、次年度に購入する。
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