研究課題
国内で分離される重症者由来の腸管出血性大腸菌(EHEC)のうち、主要な病原性遺伝子群である、locus of enterocyte effacement(LEE)を保有しないEHEC(LEE非保有型EHEC)の解析から、EHECとは別の下痢原性大腸菌カテゴリーに属する腸管凝集接着性大腸菌(enteroaggregative E. coli: EAggEC)の接着遺伝子群を保有する血便患者由来のEHEC株(血清型OXX:H-)を同定した。次に、この菌株が保有する志賀毒素(Stx2)ファージの配列を次世代シークエンサーを用いて詳細に解析したところ、既知のEHECのうち、2011年にドイツ等を中心とした欧州で大規模な集団感染事例の原因となり、数百名ものHUS患者発生の原因となった菌株で、EAggECとEHECのハイブリッド株(血清型O104:H4)が保有するStx2ファージと全長(40 kbp以上)に渡って、数塩基を除く同一の塩基配列を持つファージであることが判明した。これら全く異なる大腸菌に溶原化していたStx2ファージはいずれのバッククラウンドにおいても効率よく溶菌サイクルへ移行しており(Stx2ファージのコピー数が高く)、これに伴ってStx2産生性も高いことが判明した。これらのStx2ファージを溶原化させた大腸菌K-12株を構築したところ、Stx2ファージのコピー数はやはり高く、Stx2産生性も高いことが確認された。これらの溶原菌におけるStx2ファージの塩基配列を詳細に解析したところ、オリジナルのEHEC株での配列と完全に一致することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
Stx2ファージの全ゲノム配列を決定し、血清型OXX:H-および血清型O104:H4におけるStx2ファージは全長に渡ってほぼ同一の配列(数塩基の置換のみ)を保有することを明らかにしており、このことはこれらのファージを溶原化させた大腸菌K-12株でも同じであることを明らかにしている。さらに、これらの菌株では、ファージのコピー数増加(溶菌サイクル以降頻度の上昇)に伴ってStx2産生量が増大していることがすでに確認出来ている。これら以外のLEE非保有型EHECのうち、既知の接着因子を持たないEHEC株の解析から、繊毛遺伝子のいくつかがこれらLEE非保有型EHECの宿主細胞接着に重要であることも見出している。
本研究から繊毛遺伝子が接着に必要であることが判明したLEE非保有型EHEC(血清型OXX:HXX)において、全ゲノム配列解析を実施し、病原性遺伝子の候補遺伝子をさらに抽出すると共に、それらの欠失変異株を構築して病原性への関与を解析する。
研究遂行に必要な打ち合わせと研究成果発表のための旅費、シークエンス解析の費用等を計上する必要が生じたため。
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