研究課題/領域番号 |
15K08490
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大橋 貴 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (10282774)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HTLV-I / ATL / Tax / CTL / ワクシニアウイルス / MHC-I / エピトープ |
研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルスI型 (HTLV-I)は、成人T細胞白血病 (ATL)やHTLV-I関連脊椎症 (HAM)の原因ウイルスである。本研究では、ワクシニアウイルス (VV)が有する効率的な外来抗原発現能により、HTLV-Iの生体内での増殖が抑制可能であるかを、これまで用いてきたATL様疾患モデルラットに加えて、HTLV-I持続感染ラットにおいて検証した。HTLV-I持続感染ラットに対して、HTLV-I Taxエピトープ、またはコントロールのHIV-1 Envエピトープを提示するMHC-I単鎖三量体発現VVを静脈内投与し、その後の体内HTLV-Iプロウイルス量を経時的に測定したところ、HTLV-I Taxエピトープ発現VVを投与したラットにおいては、コントロールと比較してプロウイルス量が有意に低下していることが示された。HTLV-Iプロウイルス量の高値はATLやHAMの発症リスクファクターとして知られていることから、本研究で用いたHTLV-I Taxエピトープを提示するMHC-I単鎖三量体発現VVが、発症予防に有用である可能性が示唆された。 また、ラットにおいてHTLV-I感染T細胞とHTLV-I Tax特異的CTL細胞株 (4O1/C8)との混合培養細胞の投与により、高率に下肢の麻痺が起こるモデル系において、病理学的解析を行った結果、これまでと同様に下肢麻痺発症個体の脊髄においては、HTLV-I感染T細胞の浸潤が認められるものの、CD8陽性CTLの浸潤は確認出来なかった。HTLV-I感染T細胞を単独で同系ヌードラットに投与した場合には、全身的なHTLV-I腫瘍の増殖が起こる一方で、下肢麻痺を発症する個体は皆無であったことから、本モデル系での下肢麻痺発症へのCTLの関与の可能性は示唆されるものの、その作用機序については更なる検討が必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HTLV-I持続感染ラットを用いた解析は、Taxエピトープを提示するMHC-I単鎖三量体発現ワクシニアウイルスによる体内ウイルス量抑制効果が確認出来たことから、計画通り研究が進んだものと判断される。ATL様疾患モデルラットを用いた解析は計画よりも遅れており、これまでに培養細胞で報告しているTaxエピトープを提示するMHC-I単鎖三量体発現ワクシニアウイルスとTax特異的CTLの併用による抗HTLV-I腫瘍効果は、動物モデルでは確認出来ていない。HTLV-I感染T細胞とHTLV-I Tax特異的CTL細胞株投与による下肢麻痺モデルに関しては、次年度に予定した病理学的解析が一部終了しており、計画よりやや進んだ状況であると評価される。これらを総合するとおおむね順調と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度のHTLV-I持続感染ラットを用いた解析から、Taxエピトープを提示するMHC-I単鎖三量体発現ワクシニアウイルスにより抗HTLV-I効果が確認出来たことから、その作用機序について詳細な解析を進める。これまでの解析ではTax特異的CTLの効率的な誘導を示唆するデータが得られているが、ワクシニアウイルスが有する腫瘍溶解活性が抗HTLV-I効果に関与しているのかについても検討を進める。また、これまでにin vitroで明らかにしてきたTaxエピトープを提示するMHC-I単鎖三量体発現ワクシニアウイルスとTax特異的CTLとの併用効果や、TRAIL等を発現するワクシニアウイルスとの併用効果についてもHTLV-I持続感染ラットモデルを用いたin vivoでの解析を進め、抗HTLV-I治療への応用の可能性を追求する。さらに、最近の研究からHTLV-I感染細胞におけるシグナル伝達の阻害剤も抗HTLV-I効果を発揮する可能性が示唆されたため、これらの併用効果についてもHTLV-I持続感染ラットを用いて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
HTLV-I持続感染ラットより得られた試料の解析がすべて完了出来なかったため、細胞培養、DNA解析、およびELISA解析用試薬に充てるべき経費が次年度に持ち越しになった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度完了出来なかったHTLV-I持続感染ラットより得られた試料の細胞培養、DNA解析、およびELISA解析のための試薬購入に使用する。
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