申請者は、インドネシアを訪問し、インドネシア・アイルランガ大学のNidom博士らの協力のもと、インドネシア国内のH5N1ウイルスの流行地域を始めとする様々な地域の養鶏場や小規模農場、生鳥市場に赴き、鶏などの家禽から検体採取を実施した。検体は、東大・医科研・ウイルス感染分野に輸入し、発育鶏卵を用いてウイルス分離を試みたところ、家禽が大量に死亡していた農場のみならず、症状のなかった生鳥市場の家禽から採取した検体からもH5N1ウイルスが分離された。 ウイルス膜表面糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)遺伝子の系統樹解析を行ったところ、全て2012年にベトナムから流入したと考えられているクレード2.3.2.1dに属していた。アミノ酸変異を調べたところ、インドネシアに流入した2012年当初の株と比較して、主要抗原部位である、HA蛋白質のヘッド領域に複数の変異が見られたことから、抗原性が変化している可能性が示唆された。 次に、鶏由来細胞およびヒトの呼吸器上皮細胞における増殖性を調べたところ、株間での増殖性の差は小さく、鶏由来細胞ではいずれも10の8乗程度と高い増殖性を示し、また、ヒトの呼吸器上皮細胞では10の5乗程度まで増殖した。 更に、マウスにおける病原性を比較解析したところ、10の3乗PFU/animalにてウイルスを摂取したマウスの致死率は、ほとんどの株において100%であったが、一部、PB2遺伝子がユニークな株では、致死率が25%であり、低い病原性を示した。PB2遺伝子が病原性に大きく関与することが予想され、今後、詳細を明らかにする予定である。また、クレード2.3.2.1dウイルス間で増殖性を比べたところ、近年のウイルスは、ヒト細胞で高い増殖性を示す株が多いことから、今後、詳細にヒトへの適応性に関する解析を進める必要があると考えられる。
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