研究実績の概要 |
申請者は、インドネシアを訪問し、インドネシア・アイルランガ大学のNidom博士らの協力のもと、ジャワ島およびカリマンタン島のH5N1ウイルスの流行地域およびその周辺の養鶏場や小規模農場、生鳥市場に赴き、鶏やカモなどの家禽から検体採取を実施した。約1700の検体を、東大・医科研・ウイルス感染分野に輸入した。現在までに分離されているウイルスは、これまでの分離結果と同様に、いずれもクレードclade2.3.2.1に属するH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスであり、2004年以降流行を続けてきた従来のclade2.1.3ウイルスは分離されなかった。このことから、インドネシアでは現在も、クレードclade2.3.2.1のウイルスが主に流行しているものと推測される。2016年の採取検体から分離した一部のH5N1ウイルスのHAタンパク質のレセプター結合部位周辺に複数の変異が見られた。そこで、レセプター結合試験により結合特異性を調べたところ、レセプター特異性に変化はなく、鳥型レセプターとの結合のみ検出され、ヒト型レセプターとの結合は検出されなかった。 clade2.1.3のウイルスは、株によりヒト呼吸器上皮細胞における増殖性にばらつきがあった。そこで、効率の良い増殖に関与する因子の特定を試みたところ、ウイルスのポリメラーゼ複合体のPB2タンパク質における変異が主に関与しており、とりわけ低温において、その関与は大きいことを明らかにした。そこで低温におけるポリメラーゼ活性を調べたところ、既存のPB2-627K,701N, 591Kのように活性を顕著に上昇することはなかった。ヒトへの適応メカニズムの1つとして、上部気道で増殖するために低温で効率よく増殖することが重要であると考えられており、今回見出した変異は、未解明のメカニズムにてヒトでの効率のよい増殖に関与する可能性が示唆された。
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