研究課題/領域番号 |
15K08492
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
島上 哲朗 金沢大学, 大学病院, 助教 (50436820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | C型肝炎ウイルス / ノンコーディングRNA |
研究実績の概要 |
研究代表者はこれまでのC型肝炎ウイルス(以下HCV)感染培養細胞を用いた検討から長鎖ノンコーディングRNAの一つであるhighly up-regulated in liver cancer(以下HULC)の発現が,HCV感染により増強することを見出した.さらにHCV感染細胞においてHULCの発現を抑制したところHCV複製が低下し,インターフェロン治療抵抗性患者の肝臓ではHULCの発現が亢進していることも見出した.HULCは肝発癌に関与することが報告されている.本研究課題では,HCVによるHULC発現誘導機序,HULCによるHCV複製制御機序,インターフェロン治療抵抗性におけるHULCの役割,さらにHULCによる肝発癌促進機序を解明する.本研究より,HULCを標的とした肝発癌抑制可能な新規抗ウイルス治療の開発が期待される. 初年度の解析から以下のことが明らかになった.①HCV感染によるHULC発現誘導機序の解明:全長型のHCVおよび非構造領域のみのサブゲノムHCV共にHULC増強能を有した.そのため非構造蛋白をそれぞれ発現させたところNS5A蛋白のみHULC発現誘導能を有した.この結果からNS5A蛋白がHULC発現誘導能を有することが明らかとなった.②HULCによるHCV複製抑制機序の解明:HCVの生活環別によるHULC発現抑制の影響を検討した.その結果,HULCはHCV蛋白の翻訳過程を調整していることが明らかになった.③インターフェロン治療抵抗性におけるHULCの役割:外因性のインターフェロン投与によるHULCの発現誘導の有無を検討した.外因性インターフェロンの投与により既知のインターフェロン誘導遺伝子の発現増強を認めたが,HULCの発現誘導は認めなかった.この結果から,HULCはインターフェロン誘導遺伝子ではない可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり,HCV感染によるHULC発現増強の必須ウイルス蛋白を同定したこと,HCV生活環における翻訳過程がHULCにより調整をうけていること,さらにHULCがインターフェロン誘導遺伝子ではないことを明らかなにしており,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
①HCVによるHULC誘導機序の解明:初年度における解析からHCVのNS5A蛋白がHULC発現誘導能を有することを見出した.今後はNS5A蛋白の各種変異体を作成し,NS5A内のHULC発現誘導領域を明らかにする.またHULCのプロモーター領域をレポータープラスミドにサブクローニングし,HCV感染後レポーターアッセイを行い,HCV感染によるHULCの転写活性に与える影響を検討する.さらに転写活性の増強を認めた場合は,プロモーター領域の網羅的なdeletion変異体を作成し,HCV感染による転写活性増強に必要なプロモーター領域,転写因子を同定する.②HULCによるHCV複製抑制機序の解明:初年度の解析からHULCはHCVの蛋白翻訳過程を調整することを明らかにした.HCVの蛋白翻訳は,HCVの5'untranslated region(以下5'UTR)に位置するInternal ribosome entry site (以下IRES)により行われている.そのためHULCがHCVの5’UTRおよびIRES領域と相互作用し,HCV蛋白翻訳を調整している可能性が考えられる.この仮説を検証するため,バイオインフォマティクスを用いてHULCとHCV 5'UTRの相互作用可能部位を同定する.さらにそれらの部位に相互作用を失わせる変異を導入し,HULCによるHCVの蛋白翻訳に与える影響を検討する.これらの解析から,HULCによるHCV蛋白翻訳促進機序の詳細が明らかになると考えられる.
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