研究実績の概要 |
EBV(Epstein-Barr virus)はガンマヘルペスウイルスに属し、普遍的に存在する病原性ウイルスである。唾液を介して感染し、初感染で伝染性単核症、のちにバーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、胃癌、上咽頭癌、慢性活動性EBV感染症、、T/NKリンパ腫などの原因となりうる。EBVは80を超える遺伝子をコードしており、これまでに同定されていない、あるいは機能が解明されていない遺伝子が数多く存在する。 本研究では、このようなEBVの未同定、未解明遺伝子のうち、主にガンマヘルペスウイルスのみに保存されている遺伝子に着目し、これらの同定、機能解析をを行うことで、ウイルスの基礎的な性状解析を行うことを目的としている。このような研究は基礎ウイルス学に寄与するばかりでなく、新規創薬ターゲットやワクチンターゲットの開発にも貢献する。 本年度は特に、BRRF2とよばれるウイルスのテグメントタンパク質の詳細な解析を行い、論文として報告することができた。我々はこれまでにBRRF2は子孫ウイルスの成熟に重要であるという報告をしている(Watanabe et al., Virology 2015a)。今回、BRRF2の領域欠損変異体を多数作成し、特にBRRF2のC末の領域が、BRRF2の機能と、BRRF2タンパク質の細胞内局在に重要なはたらきをしている、ということを報告した(Watanabe et al., Front Microbiol 2017)。この領域は酸性アミノ酸のクラスターが存在しており、このドメインが重要であろうと推測された。 また別件で、BRRF1、BKRF4とよばれる遺伝子についても解析を進めており、現在学術誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は三年計画の二年目であったが、全体に順調である。初年度で下記のようにすでに三報の論文を出しており、さらに今年度一報の論文を報告することが出来ている。 BGLF3.5及びBDLF4については、昨年度までにそれぞれ一報ずつ論文を報告している(Watanabe et al., J Virol 2015; Watanabe et al., Virology 2015b)。 BRRF2については、子孫ウイルスの成熟に重要であるという報告を昨年度までにしており(Watanabe et al., Virology 2015a)、今年度はさらに、その機能と細胞内局在に重要なドメインを決定することが出来た(Watanabe et al., Front Microbiol 2017)。 BRRF1については、新たに欠損ウイルスを作成し、その性状を解析した。意外なことにBRRF1欠損株は野生株と全く同様のフェノタイプを示した。すなわち、BRRF1は少なくとも細胞レベルのEBV複製に不要であることが初めて明らかになった。さらに詳細な解析から、BRRF1は転写に関係しているらしいことも示唆されてきている。 BKRF4については、やはり欠損ウイルスを作成し、その性状を解析した。BKRF4欠損株は野生株に比べておよそ1オーダーほどウイルス産生能が低下しており、BKRF4がウイルス増殖に重要であることが示されている。
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