研究課題/領域番号 |
15K08496
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
本田 知之 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (80402676)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | RNAウイルス / レトロトランスポゾン |
研究実績の概要 |
最近、我々は、RNA ウイルスであるボルナ病ウイルス(BDV)の配列が、レトロトランスポゾンである LINE によって逆転写され、宿主ゲノムにインテグレーションされることを明らかにした。さらに、LINEは、BDV 以外の RNA ウイルスの配列も逆転写することが報告されてきている。これらは、LINE と RNA ウイルスとの間に相互作用が存在する証左である。我々は現在までに、LINE 転移活性の高い細胞では、BDV 感染に対する抵抗性が生じていることを見出している。本研究では、 このLINE による BDV 感染抵抗性賦与メカニズムを明らかにする。 本年度の研究においては、LINEにより挿入された配列がウイルス感染を制御する方法について解析し、レトロトランスポゾン-RNAウイルス間相互作用について以下の結果を得た。 1)ヒトゲノムに存在する内在性ボルナウイルス配列(endogenous bornavirus-like nucleoprotein: EBLN)がヒト組織において、RNAとして発現していることを見出した。 2)ボルナウイルスのインテグレーションにより、周囲の遺伝子の発現が変化した可能性を見出した。特に、ヒトEBLN-1は近傍の遺伝子COMMD3の発現を制御し、宿主の自然免疫活性をあげる可能性が考えられた。 3)ボルナウイルスのインテグレーションが、宿主ゲノムのpiRNAクラスター(低分子RNAであるpiRNAを産生するゲノム領域)近傍に起こったことを見出した。ここから産生されたpiRNAは、ボルナウイルスの配列に対しアンチセンス側であり、ウイルスを制御する可能性が考えられた。 このように本年度は、レトロトランスポゾン-RNAウイルス間相互作用について当初の計画以上の成果をあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度の研究計画では、2つの小課題を提案していた。 1つは、各種LINE変異体の作成である。すでに、LINEのプロモーター領域のみ、ORF1のみ、ORF2のみをコードする変異体を作出済みである。本小課題は計画通り進展していると考えられた。 もう一つは、LINE活性制御方法の開発である。この小課題については、活性変化をもたらす化合物スクリーニングを行ったが、まだヒット化合物は得られていない。一方、LINEタンパク質と相互作用する分子の候補をいくつか単離した。今後、その結合を検証する予定である。以上のことより、本小課題についてもおおむね順調に進展していると判断した。 さらに、本年度はLINEより生じた内在性RNAウイルス配列の解析から、LINEが賦与する抗ウイルス活性の実態が明らかになりつつある。このことは、今後展開する予定のLINE-ウイルス間相互作用の解析において研究の最終的な目標の候補を示す知見であり、重要である。つまり、本年度得られた情報は、本研究の方向性をある程度指し示す成果であると言える。 全体として、当初の計画より若干の変更点はあるが、大きな追加データがあり、本研究の目的達成に向けて当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得られた結果をもとにして、LINE-ウイルス間相互作用による新しい抗ウイルス防御機構の作業仮説をたて、検証する。具体的には、 宿主ゲノムに挿入されたRNAウイルス配列からできたRNA分子(piRNAや長鎖非コードRNAを含む)がウイルス感染を制御する機構を明らかにすることと、ウイルスがLINEに与える影響の検証することの2つの小課題について進める。さらに当初の計画に加え、LINE-ウイルス間相互作用がウイルスの病原性に与える影響まで明らかにすることを試みたいと考えている。 1)宿主ゲノムに挿入されたRNAウイルス配列からできたRNA分子の機能解析:本年度見出したEBLN由来piRNAがボルナウイルスに与える影響の解析を行なう。他のEBLNからも長鎖非コードRNAが出来ていると考えられる。それらの機能についても検討を行なう。 2)ウイルスがLINEに与える影響の検証:各種ウイルスタンパク質がLINEに与える影響を検証する。 3)LINE-ウイルス間相互作用がウイルスの病原性に与える影響:病原性のあるウイルス感染症をモデルに用いて、LINEとの相互作用を見出す。 なお、平成28年度より、大阪大学へ異動する。そのため、平成28年度は研究の立ち上げのため、若干の研究の遅れが見込まれる。しかし、本年度は予定以上の成果を挙げているため、来年度の若干の遅れは相殺できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予算に関して下記の2つの予期せぬ状況が生じたため、次年度使用額が生じた。 1)年度途中での課題採択:課題採択が年度途中であったために、予定の初期投資は他の予算で代用した。採択後の使用額は概ね予定通りであった。 2)年度末での異動が決まった:年度末での大阪大学への異動が決まり、物品や機器の引越し・移管準備などのために、実験が滞った。
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次年度使用額の使用計画 |
新年度に合わせての異動に伴う費用や、新しい場所での研究立ち上げに繰り越し分の予算を使う予定である。その他の消耗品や旅費などは、申請した内容で執行する予定である。
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