研究課題
最近、我々はRNAウイルスであるボルナ病ウイルス(BDV)の配列が、レトロトランスポゾンであるLINEによって逆転写され、宿主ゲノムにインテグレーションされることを明らかにした。これは、LINEとRNAウイルスとの間に相互作用が存在する証左である。我々は現在までに、LINE転移活性の高い細胞では、BDV感染に対する抵抗性が生じていることを見出している。本研究では、このLINEによるウイルス感染抵抗性賦与メカニズムを明らかにする。本年度の研究において、LINEにより挿入された配列がウイルス感染を制御する方法について解析した。また、レトロトランスポゾン-ウイルス間相互作用を解析する上で有用な、病原性の明らかなウイルス感染モデルの構築を行った。(1)平成27年度に見出した内在性ボルナウイルス配列 (endogenous bornavirus-like element from N gene: EBLN) からのpiRNA産生の意義を検討した。piRNAなどの低分子RNAの機能として、それらがウイルスRNAをダウンレギュレーションするという可能性がある。これを検証するために、microRNAを発現するBDVを作成した。しかし、BDV由来microRNAは、BDV RNAと相補的ではあるが、BDV RNAをダウンレギュレーションしなかった。(2)BDVのヒトへの病原性ははっきりしない。これを明らかにするプラットフォームとして、信頼性の高い血清中抗体の評価方法を確立し、BDV抗体陽性の小児自閉症症例を見出した。(3)病原性が明らかなウイルスとして、がんウイルスであるB型肝炎ウイルス (HBV) がある。HBV慢性感染の間に、HBV遺伝子とLINEとのキメラ遺伝子が生じる。このキメラ遺伝子はレトロトランスポゾン-ウイルス間相互作用のよい例であると考え、その意義について研究を開始した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究計画では、2つの小課題を提案していた。しかし、平成28年度は大阪大学への異動により、新しい研究の立ち上げに時間を要した。そのため、若干の研究計画の変更を余儀なくされた。最も大きな変更として、ヒトへの病原性を強く意識し、BDVの病原性の再評価と病原性のはっきりしたHBVの研究立ち上げを行った点である。その結果、レトロトランスポゾン-ウイルス間相互作用についてより表現型に基づく解析が行える環境が整ったと考えられる。(1)前年度の延長として、低分子RNAが実際にウイルスゲノムRNAを制御できるか検証した。その結果、少なくとも低分子RNAが直接ウイルスゲノムRNAを切断したりする可能性が低いことが明らかとなった。このことは、今後の解析の焦点を他の可能性に集中させることにつながり、重要な成果であると考えられる。以上のことより、本小課題についてはおおむね順調に進展していると判断した。(2)LINE活性制御方法の開発については引き続き化合物スクリーニングを行っている。しかし、まだヒット化合物は得られていない。今後、別の化合物ライブラリーを用いてスクリーニングする予定である。(3)HBV研究の立ち上げについては順調に進んでいる。各種遺伝子発現プラスミドや、抗体の整備、HBV-LINEキメラ遺伝子発現プラスミドの構築などが終了している。今後、それらを用いた解析を進めていく予定である。全体として、変更点もあるが、本研究の目的達成に向けて、概ね順調に進展していると考えられる。
平成28年度に得られた結果をもとにして、LINE-ウイルス間相互作用の意義について作業仮説をたて、検証する。具体的には、 宿主ゲノムに挿入されたRNAウイルス配列からできたRNA分子(主に長鎖非コードRNAとして)がウイルス感染を制御する機構を明らかにすることと、ウイルスがLINEに与える影響の検証することの2つの小課題について進める。さらに当初の計画に加え、LINE-ウイルス間相互作用がウイルスの病原性に与える影響まで明らかにすることを試みたいと考えている。(1)宿主ゲノムに挿入されたRNAウイルス配列からできたRNA分子の機能解析:EBLNから転写される長鎖非コードRNAの機能について検討を行なう。(2)ウイルスがLINEに与える影響の検証:各種ウイルス (BDVやHBV)のウイルスタンパク質がLINEに与える影響を検証する。(3)LINE-ウイルス間相互作用がウイルスの病原性に与える影響:主にHBVをはじめとするがんウイルスの病原性に、LINE-ウイルス間相互作用がどう関与するのか検証していく。
平成28年度は研究機関の異動があったため、研究計画に変更があった。
研究機関の異動により、必要な物品の補充を平成28年度に行ってきているが、引き続き来年度も補充を行なう予定である。また、研究協力者の大学院生が平成29年度より追加されるため、消耗品の費用の増大が見込まれる。次年度に繰り越された予算で、増大分を相殺する予定である。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (12件) 備考 (1件)
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