前年度までの研究において、ミセルおよびナノディスク中での溶液NMR測定のために準備したカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス MIR1由来の組換えポリペプチド、すなわち2本の膜貫通領域とそれらをつなぐループ(ヘリックス-ヘアピン-ヘリックス)のみでは構造不安定となることが明らかになったことを受け、平成29年度はその詳細について検討した。その結果、それぞれの膜貫通領域の細胞質側について、十分な長さの領域を有することが、細胞膜上におけるMIR1およびMIR2の安定発現に必要であることが明らかになった。また、ユビキチン化活性を担う細胞質N末端のRINGドメインと、認識を担うヘリックス-ヘアピン-ヘリックス、さらに安定発現のために十分な長さのC末端側細胞質領域を確保し、それ以降の細胞質領域を欠損させた変異体においても、MIRのユビキチン化活性は保たれていなかった。これらのことから、活性の面においてもヘリックス-ヘアピン-ヘリックスのみでは不十分であることが示唆された。これら成果を受けて細胞質領域の特にC末端側の役割について詳細な検討を行い、MIR2はMIR1に比較してより細胞質C末端側の天然変性領域を、安定発現と活性保持に必要とすることが判明した。本研究はウイルスユビキチンリガーゼMIRによる宿主タンパク質の認識機構を構造生物学的に解明するために始まり、その目的の達成には至らなかったが、構造を有しないと予測されているMIRの細胞質尾部が、細胞膜で区切られた膜貫通領域の安定性を制御するという新しい知見を得ることができた。
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