研究課題
ロタウイルスは、11本もの多分節2本鎖(ds)RNAをゲノムとして保有する。ウイルスを自己複製する存在として真に理解するためには、感染性ウイルスを用いた検証が必要不可欠である。遺伝子操作系は、ウイルスゲノムへ任意の変異を導入することで、ウイルスを自由に設計し作成することができ、ウイルス感染性や病原性の獲得機構を理解する上で最も強力な手法である。しかしながら、11本ものdsRNA分節をゲノムとするロタウイルスでは、そのゲノム構造の複雑さゆえか、この技術の応用が極めて困難であり、如何なる遺伝子操作系も存在していなかった。2006年にようやく私たちは、ヘルパーウイルスを用いて11本のゲノム分節のうち1本がcDNAに由来する組換えロタウイルスを作製することを可能にする遺伝子操作系の開発に世界に先駆けて成功した(PNAS 103, 2006)。このことは、多分節dsRNAウイルスであるロタウイルスにおいても遺伝子操作系の適用が可能であることを示した。平成28年度の研究成果として、この系を発展させることで、全11本のゲノム分節がcDNA由来の感染性ロタウイルスを作製する技術についても、大阪大学微生物病研究所との共同研究により、開発に成功した(PNAS 114, 2017)。この技術は、いまだその詳細が明らかではないロタウイルス感染や病原性発現の機構の理解のみならず、次世代ワクチンや腸管指向性ロタウイルスベクターの開発に大きく貢献するものと期待される。
2: おおむね順調に進展している
ロタウイルスゲノムをコードする11本のプラスミドとともに、コウモリレオウイルス由来の細胞融合性蛋白質FASTとワクシニアウイルス由来のRNAキャッピング酵素をコードしたプラスミドの計14本のプラスミドをT7 RNAポリメラーゼを恒常的に発現する培養細胞(BHK-T7)に導入することで、全11本のゲノム分節がcDNA由来の感染性ロタウイルスの作成が可能となった。
以前のヘルパーウイルスを用いた遺伝子操作系では解析の対象とすることのできなかったゲノム分節についても解析対象とする。ロタウイルスゲノムへ導入する部位特異的変異が致死的でない限りは組換えロタウイルスを回収することができるこの新規の遺伝子操作系を展開することで、ロタウイルス複製や病原性発現の機構についての研究の著しい展開を目指す。
本年度は研究が大きく展開したことから、実支出額が当該年度受領額を大きく上回ったものの、前年度からの繰越金があったために次年度使用額が生じた。
次年度も、トランスフェクション試薬や細胞培養プラスチック器具が大量に必要であり、これらを購入するために、次年度使用額をあわせて使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 7件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件)
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