研究実績の概要 |
cDNAから感染性ウイルスを人工合成することを可能にするリバースジェネティクス系(遺伝子操作系)は、主要なRNAウイルスのほとんどで開発され、ウイルス増殖や病原性発現メカニズムといった基礎研究のみならず、ワクチン開発においても活用されている。しかしながら、重要な下痢症ウイルスであるロタウイルスにおいては、そのゲノム構造の複雑さゆえにその開発は困難を極めた。私たちは2006年に、ヘルパーウイルスを用いる初期的な系ではあるが、全11本の分節ゲノムのうち1本を人工合成することを可能にする遺伝子操作系の開発に世界に先駆けて成功した(PNAS 103, 2006)。その後、ヘルパーウイルスを必要としない、cDNAのみから組換えロタウイルスを人工合成することを可能にする完全な遺伝子操作系の開発にも取り組み、大阪大学との共同研究により、その開発にも成功した(PNAS 114, 2017)。この新規な遺伝子操作系における組換えロタウイルスの人工合成効率はいまだ不十分であったが、平成29~30年度の研究成果として、細胞に遺伝子導入する全11本のウイルス遺伝子のうち、NSP2とNSP5の非構造蛋白質をコードするプラスミド量を調整することで、組換えロタウイルスの人工合成効率が著しく上昇することを見い出した(J Virol 92, 2018)。この独自の遺伝子操作系を用いることで、世界初となる、蛍光蛋白質(EGFP, mCherry)のような大きな外来遺伝子をゲノムとして保有する組換えロタウイルスの作成も報告した。一方で、これら外来遺伝子は、非構造蛋白質をコードするNSP1遺伝子に導入したために、これら組換えロタウイルスの増殖能は、野生型ロタウイルスに比べて大きく低下したが、全長のNSP1蛋白質を感染細胞に強制発現させることで、これら組換えロタウイルスの増殖能が回復することも示した。
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