研究課題/領域番号 |
15K08507
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
山崎 学 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (50442570)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | B型肝炎ウイルス / 抗ウイルス薬 / ゲノム複製 / 創薬標的分子 / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus: HBV)による肝炎の治療戦略拡充のために、新たな創薬標的分子の選定が求められている。そこで本研究では、ゲノム複製に特化した独自の培養細胞評価系を用いて、HBVゲノム複製を制御する化合物を見出し、これを用いた化学生物学的研究により、新たな創薬標的分子を同定することを目的とする。2年目は前年度に見出した化合物の作用機序解析、および微生物培養液サンプルのスクリーニングを実施し、以下の研究成果を得た。 (1)前年度に見出した化合物の1種について、初年度の研究から、ウイルスポリメラーゼの逆転写反応の直接阻害が示唆された。そこで本年度は、既存薬のエンテカビルに耐性を示すポリメラーゼに対する阻害効果を調べた。その結果、本化合物はエンテカビル耐性ポリメラーゼにも阻害活性を有することが示された。一方、本化合物の既知生理活性から、宿主因子を介した抗ウイルス活性の発揮の可能性が挙げられた。このことから、培養細胞に及ぼす影響を転写レベルで解析した結果、化合物によってインターフェロン系遺伝子や抗ウイルス活性を有するAPOBECタンパク質の発現誘導が認められた。 (2)前年度に取得した別の化合物について、上記1と同様にして薬剤耐性の影響を調べた結果、エンテカビル耐性ポリメラーゼにも阻害活性を保持することが示された。また、本化合物(独自の天然物誘導体)の立体構造を決定した。 (3)前年度に引き続き微生物培養液サンプル(約6千サンプル)をスクリーニングした。その結果、高い選択性を示すサンプルを見出し、この活性成分を単離・同定した。同定した化合物の構造情報から、ウイルスポリメラーゼが有するRNase H活性の阻害作用が推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、HBVゲノム複製を抑制する化合物を見出し、この作用機序解析から新たな創薬標的分子を同定することである。当年度においては、前年度に見出した化合物の作用機序の知見を深めるとともに、前年度に実現できなかった微生物培養液サンプルからの目的化合物の取得に重点を置き、この達成を最も重視した。 前年度に見出した化合物の1つは、臨床上問題になっている薬剤耐性ポリメラーゼにも阻害活性を有するだけでなく、宿主の抗ウイルス応答を惹起するbifunctionalな作用を示す可能性が示唆された。HBVの完全排除・根治を図る上では、宿主自然免疫系の惹起は極めて効果的な治療戦略と考えられている。本化合物の作用機序の有望性を明らかにする必要があり、最終年度も継続して追求する。一方、前年度に取得した別の化合物については、構造情報が不十分だったため、改めて構造決定を行った。上記化合物と全く異なる構造であるとともに、薬剤耐性の影響を受けずに阻害活性を発揮することから、これまでとは異なる作用機序の可能性がある。 さらに当年度は、微生物培養液サンプルから、HBVゲノム複製を阻害する化合物の単離に成功した。同定された化合物の構造から、ウイルスポリメラーゼが有するRNase H活性の阻害が作用機序として推察された。RNase H活性は有望な創薬標的の1つに挙げられており、本化合物を活用してこれを検証できると考え、現在、in vitro酵素アッセイ系の構築を進めている。 以上、これまでの研究を通して、HBVゲノム複製を阻害する3種の化合物の同定に成功した。それぞれに異なる作用機序が示唆されることから、最終年度には多面的な化学生物学的研究を展開できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は同定した3種の化合物について、以下3つの推進方策のもとに本研究課題を進める。 (1)Bifunctionalな作用が示唆される化合物について:本化合物の有望性を明らかにする上で重要な課題は、惹起された抗ウイルス応答によって、HBV持続感染の本体であるcccDNAが低下するか否かである。そこで現在、これを解析するための培養細胞評価系の構築を進めている。これを用いたRNAiによるノックダウン実験等を行い、当該パスウェイの治療戦略としての可能性を検証する。 (2)取得した別の化合物について:これまでに本化合物の生理活性は報告されていない。そこで、本化合物の阻害活性に重要な構造情報を明らかにするために、構造活性相関研究を行う。また、当年度に引き続き、ゲノム複製のどの段階を阻害しているかを、生化学的・分子生物学的アプローチにより明らかにするとともに、化合物の作用機序の仮説立案を試みる。 (3)微生物培養サンプル由来の化合物について:本化合物の作用機序を明らかにするために、in vitro酵素アッセイ系の構築を進める。さらに、既存薬との併用効果についても調べ、当該作用機序の創薬標的としての有望性を検証する。 上記解析を通して得られた知見をまとめ、成果発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、試薬等の消耗品の購入が予定よりも僅かに少なかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も試薬等の消耗品を必要とすることから、生じた差額はその費用として使用する予定である。
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