B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus: HBV)による肝炎の治療戦略拡充のために、新たな創薬標的分子の選定が求められている。本研究では、ゲノム複製に特化した培養細胞評価系を用いて、HBVゲノム複製を阻害する化合物を見出し、これを用いた化学生物学的研究を展開することで、創薬標的分子の同定を目的とした。本研究にて3つの化合物を見出し、以下の研究成果を得た。 (1)医薬品として承認された核酸アナログの1種に、ウイルスポリメラーゼの逆転写反応を直接阻害する作用を見出した。この作用は既存薬のエンテカビル(ETV)に耐性を示すポリメラーゼにも有効であった。一方、化合物本来の生理活性の1つに、自然免疫の活性化が指摘されている。そこで、化合物処理した細胞を解析した結果、インターフェロン誘導性遺伝子やAPOBECタンパク質の発現誘導を確認した。 (2)初年度に見出した天然物誘導体は、ETV耐性ポリメラーゼにも有効であった。一方、野生型HBV粒子を産生するHepG2.2.15細胞では、10倍ほどの阻害活性の低下が認められ、作用機序の特定には至らなかった。 (3)微生物培養液サンプルのスクリーニングから、抗HBV活性を示すpuberulonic acidを単離した。本化合物は金属イオンと配位しうるトロポロン骨格をもつことから、HBVポリメラーゼのRNase H活性の阻害が予想された。そこで、in vitro酵素アッセイを構築して評価した結果、puberulonic acid はRNase H活性を標的として抗HBV効果を発揮することが示された。 以上の研究成果の中で、直接のみならず間接的にも抗HBV効果の発揮が期待される核酸アナログの同定は、これまでに無いdual functional drugによる治療戦略というアイデアに繋がった。現在、この可能性を追求している。
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