手足口病は四肢末端・口腔粘膜の水疱性発疹を主症状とし、幼児に流行する。主要な病原体はピコルナウイルス科・エンテロウイルス属のエンテロウイルス71型(EV71)などである。手足口病は一般に症状が軽いが、EV71感染では髄膜炎・脳炎・脳症を起こし死に至ることがある。しかし、ウイルス特異的な治療法・抗ウイルス薬は確立されていない。 EV71のヒト横紋筋腫細胞への感染を阻害する低分子化合物としてNF449が報告されている。NF449はEV71のキャプシドに相互作用し、EV71と細胞の結合を阻害すると推測されている。本研究ではNF449とEV71キャプシドとの相互作用を詳細に解析し、その阻害機構を分子レバルで解明した。 EV71は正二十面体のキャプシドをもつ。キャプシドの頂点(5回転軸)には5分子のキャプシド蛋白質VP1が集合している。特にVP1の244番目のリジン(VP1-244K)は5回転軸に隣接し、EV71受容体であるPSGL-1、ヘパラン硫酸と相互作用すると考えられている。本研究において、VP1-244に変異をもつウイルスに対してはNF449の感染阻害効果が低下していることを示した。つまり、VP1-244K がNF449との相互作用に非常に重要と考えられた。さらに、EV71と可溶性PSGL-1蛋白質あるいはヘパラン硫酸ビーズとの結合は、NF449によって阻害されることを明らかにした。したがって、NF449のEV71感染阻害機構は、EV71と受容体との相互作用を阻害することであると結論づけられた。 本研究成果により、NF449をリード化合物とした抗ウイルス薬の開発、EV71と受容体の相互作用を標的とする抗ウイルス薬の開発が大きく前進すると期待される。
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