研究課題
本申請は赤血球から物理的科学的刺激によって放出されるATPの、免疫調節因子としての役割について解明する事を目的とする。体細胞の1/3を占める赤血球は様々な刺激に呼応してイオンチャネルを介してATPを放出し、そのATPと代謝産物は細胞表面に発現するP2レセプターを介して免疫系を刺激する。我々は申請前の研究で、マラリア感染において原虫非特異的T細胞の活性化とそれに引き続くExhaustionが誘導されることを見出した。感染時におけるこのT細胞の変動は、赤血球からのATP放出をブロックすることで部分的に阻害された。本申請では赤血球が刺激に応じてATPを放出することで免疫系の調節を行い、Tリンパ球の非特異的応答に関与しているのではないかという仮説を立て、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。まずマラリア感染マウスにATP放出チャネルPannexin-1のインヒビターCarbenoxolone(CBX)を投与すると、CBX非投与群と比較して血中ATP濃度が有意に低値を示した。マラリア感染のみ(CBX非投与)の群では抗CD3抗体刺激後のT細胞からのサイトカイン(IL2,IFN-g,IL-6)生産がマラリア非感染群と比較して有意に低値を示し、増殖能も優位に低下するが、マラリア感染マウスにCBXを投与することで、そのサイトカイン生産も増殖能も回復した。このマラリア感染と同時に投与するCBXのT細胞応答に対する効果は、マラリア抗原と無関係な抗原に特異的な(マラリア抗原非特異的な)TCRを保有するTCRトランスジェニックマウスにおいても同様の効果が認められた。以上の結果からマラリア感染に伴ったユニークなT細胞応答は、細胞外へ放出されるATPがその一端を担っていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
マラリア感染に伴ったユニークな抗原非特異的T細胞応答にATPが関与していることが示唆された。このことは当初の計画で予想された結果であり、計画通り順調に進行している。
今後の研究について、以下の実験を予定している。脾臓を摘出(Splenectomy)したマウスやリンパ節を欠損したalyマウスなどに、マラリア原虫を感染させると同時にCBXやヌクレオチド・ヌクレオシドアナログやインヒビターを投与し、マラリアで認められるユニークなT細胞応答にConventionalなT細胞応答のシステムが関与しているかどうかを臓器・細胞・分子レベルで追究する。マラリア感染マウスではアレルギーや自己免疫症状の改善や各種感染症に対する抵抗性低下が認められるが、この現象にATPが関与しているかについて、CBXやヌクレオチド・ヌクレオシドアナログやインヒビターを用いて追究する。
申請当初に予定していた遺伝子改変マウスの購入が計画通りに進まなかったため。
遺伝子改変マウスの購入とそれらの維持に費やす予定である。
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