交付申請書に記した研究目的に即し、研究代表者は免疫記憶に関する未解決問題の1つ、“なぜメモリー(記憶)T細胞はナイーブ(未感作)T細胞に比べて迅速に免疫応答できるのか”を解明すべく研究に取り組んだ。本年度は、数年間にわたり研究を続けてきたエピジェネティック制御因子、ポリコーム群(PcG)およびトライソラックス群(TrxG)タンパク質について、権威のある総説誌に複数論文発表することができた。また、TrxGタンパク質の一種であるMeninによるエピジェネティックな制御機構が、記憶T細胞の応答に重要であることを見出し論文として発表した。この内容に関しては学会発表も行なっている。さらには、研究代表者が得意とするトランスクリプトーム解析手法を生かして、国内外の研究者と共同研究を行い、共著者として論文発表を行った。発表した総説、原著論文の多くが海外の研究者との共同研究であり、国際的なネットワークの構築の実績も得られることができた。 現時点で投稿中あるいは投稿準備中の論文も多数あり、この1年間で飛躍的に研究が進んだと実感している。具体的には、TrxGタンパク質の一種であるCxxc1の機能解析、記憶T細胞応答の転写後修飾に関係する新規RNA結合タンパク質についての論文が投稿準備中である。また、PcG/TrxGのco-occupied遺伝子の空間的相互作用については、昨年度導入した相関関数という手法に一部工夫を加えることでより高度な解析を行えるようになった。これを用いて、公共データベース(GEO)を利用したH3K27me3 とH3K4me3の空間的相互作用について解析し、T細胞での特殊なパターンを発見した。以上のように、さらなる発展の見込める基礎データを数多く得られたことも、本研究の重要な実績であると考えている。
|